前回は、はりのたわみを簡単に求める方法を解説した。
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初心者でもわかる材料力学11 はりのたわみを簡単に求める。(面積モーメント法、特異関数)
今回は、以前にトラスの不静定問題のようなはりにおける不静定問題の解法を紹介する。さらに異種材料が組み合った組み合わせはりの考え方も紹介する。
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初心者でもわかる材料力学5 円環応力、トラスってなんだ?(嵌め合い、圧入の基礎、トラス)
また初心者でもわかる材料力学を順に学びたい人はこちらの索引からどうぞ
まあ今回の紹介する方法も昨今のシミレーション事情から実際に使ってたわみ量を求めることはほとんどないと思う。
ただ、レイアウト、スケッチなどの構想段階で構造物の変形量を想像するのに役に立つのでよく理解して欲しい。
また後半の組み合わせはりについては昨今では、異種材料を組み合わせて強度、剛性の向上を図ることが非常に多い。よって概念はよく知っておいて欲しい。複合材は今後も利用が指数関数的に増えるはずだ。
まあ、これもシミレーションで求めてしまうので実際に計算することは、無いだろうが意味を理解していないとシミレーションが正しく行えない。
いずれにせよ実際に使わなくてもわかってないと困ることは多々あるので是非、理解しよう。
はりの不静定問題
静定、不静定
まずそもそも静定、不静定って何だというのは、トラスでも説明したがもう一度、説明しておく。
静定とは応力、変形量を求める際に外力の釣り合いと内力の釣り合いだけで求められることである。
一方で不静定とは、静定では応力、変軽量が求められずさらなる幾何学的な変形量の関係などの条件がわからないと求められないことである。
まあ、毎度のことながら名前はどうでも良いのだが要は、力の釣り合いだけで求まるかどうかの違いである。
今回ははりの不静定問題を取り扱っていく。
はりの不静定問題
まずいつもながらの例題を設定していこう。先端が台座Aで支えられて逆側が壁に固定されている長さlのはりがある。
そこに一様な等分布荷重qが掛かっているはりのたわみとたわみ角を求めていく。
座標は、左端を原点とする。
これをいつも通り力の釣り合い、モーメントの釣り合いを考えると次のようになる。
これを重積分法で解いたときに不静定を解く条件(境界条件)はx=0,lのときにたわみ角、たわみ量が0になるという条件を使って求める。
ただし非常に面倒だ。
そこで簡単に求められる方法を紹介する。
重ね合わせ法
先程の例題と全く同一のはりを考える。
このとき、はりにかかる外力は等分布荷重qと台座Aから受ける反力RAになる。
実はそれらをそれぞれ一つずつのはりの問題として考えて後で結果を足すことができる。これを重ね合わせ法という。
まあ図を見て欲しい。
これをqとRAで分けると
ただの片持ちはりの問題に分けることができる。これらのたわみは、前回説明した重積分法でも簡単に求まる。
そうするとそれぞれの先端でのたわみy1,y2はそれぞれ次の式になる。
$ y1=\frac{q}{24EI}(x^4-4l^3+3l^4) $
$ y2=-\frac{RA}{6EI}(x^3-3l^2+2l^3) $
まだRAがわからないので不静定問題を解く条件としてはりの先端x=0の時、たわみは0になるので
$ y=y1+y2=\frac{ql^4}{8EI}-\frac{RAl^3}{3EI}=0 $
より$ RA=\frac{3}{8}ql $になり固定端Bの反力RB、MBは力の釣り合いと先端Aのモーメントの釣り合いから
$ RA+RB=ql $
$ MB-RBl+\frac{ql^2}{2}=0 $
より$ RB=\frac{5}{8}ql $ $MB=\frac{1}{8}ql^2 $よりたわみは、次の式で求まる。
$ y=y1+y2=\frac{q}{48EI}(2x^4-3lx^3+l^3x) $
そう、割と簡単に求まるのだ。
y1,y2のたわみを求めるときに割と単純な曲げモーメントになるので重積分法ではなく面積モーメント法なんかを使うと超早く求められる。
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初心者でもわかる材料力学11 はりのたわみを簡単に求める。(面積モーメント法、特異関数)
もう一例ほど紹介しよう。これは筆者が学生時代に頭を悩ませた問題だ。
はりの不静定問題2
ではまず例題を設定しよう。長さlの両持ちはりが✖️字のように組み合って交点に荷重Pがかかるとしよう。
これを計算しやすい図に直すと各台座にA、B、C、Dと名前をつける。
ここからは重ね合せ法を使うためにはりABとCDに分けて考える。それぞれの荷重はP1,P2と置くと(断面二次モーメントがそれぞれ異なることにしよう)
これで簡単な両持ちはりになる。ではそれぞれの最大たわみ量y1,y2を求めると(詳細はこちら)
$ y1=\frac{P1l^3}{48EI1}. y2=\frac{P2l^3}{48EI2} $
ここから重ね合せの条件を考えると荷重は、$ P=P1+P2 $でたわみははりABとCDが交わっている箇所は、たわみ量が同じなので$ y1=y2 $となる。
$ P1=P-P2. \frac{P1}{I1}=\frac{P2}{I2} $
$ P1=\frac{I1}{I1+I2}P. P2=\frac{I2}{I1+I2}P$
となりたわみ角、たわみ量や各台座での反力RA,RB,RC,RDは簡単に求まる。
これではりの不静定問題の紹介を終わりにする。
組み合わせはり
複合材
ここからは異種材料を組み合わせた場合のはりを考えてみる。
実際の設計や製品では筆者の知るところでは、アルミと鉄の組み合わせはかなり多い。他には、樹脂と銅やカーボンファイバーと樹脂(CFRPってやつ)で変わり種ではチタン、マグネシウムなどを圧入や接着などを使って一つの部品や部材にすることがある。
まあ、あまりにも材料の物性が異なる(材料の特性 応力-歪み線図)場合はあまり意味がない。変形している途中で部材が剥がれると滑る(密着性、剥離)。
まあこのような研究は素材メーカーは、もちろんだが意外と日本の大学は頑張っていたりする。
このときに材料の弾性係数、断面ごとに考えても解けるのだが面倒だ。
そこで複合材を一つの部材と見て仮想の断面二次モーメントと弾性係数を求める。
複合材の仮想の断面二次モーメントを求める
いつも通り例題を設定しよう。
図の寸法の角材で主要部材がアルミ、底の厚さtが鉄で考える。このときのアルミの弾性係数をEa、鉄の弾性係数をEfとしよう。
もちろんアルミより鉄のが強いのでEf>Eaにも注意しよう。
ここで断面二次モーメントってなんだを思い出して欲しいのだが左側の図での任意の距離yにおける曲げ応力は次のようになる。曲率半径をρとする。
$ σa=\frac{Ea}{ρ}y $
微小面積dA=bdyに働く力は、
$ dPa=\frac{Ea}{ρ}ybdy $
同様に鉄の部分も
$ dPf=\frac{Ef}{ρ}ybdy $
となる。
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初心者でもわかる材料力学7 断面二次モーメントってなんだ?(はり、梁、曲げ応力、断面一次モーメント)
ここで同一部材の断面内での曲げ応力は曲げモーメントに逆らう応力で総和は、0になるので荷重dPaと荷重dPfの和も0になる。
また中立軸周りでは曲げ応力によるモーメントと曲げモーメントが等しいことから次の式が成り立つ
$ \int dPa+\int dPf=0 $
$ \int ydPa+\int ydPf=0 $
となるがこれではまだ式が解けないので弾性係数を使って積分する係数を1種類にする。
まずは鉄の弾性係数に合わせると
$ dPa=\frac{Ef}{ρ}(\frac{Ea}{Ef}b)ydy $
同様にアルミの弾性係数に合わせると
$ dPf=/frac{Ea}{ρ}(\frac{Ef}{Ea}b)ydy $
ここで式の中の()内を部材の仮想の幅と考えると
$ b1=\frac{Ef}{Ea}b. b2=\frac{Ea}{Ef}b $
つまり次のようなの幅 $ b1=\frac{Ef}{Ea}b $は鉄、幅$ b2=\frac{Ea}{Ef}b $の部分はアルミの断面として考えることができる。
e1、e2は中立軸からの上下端の距離とする。部材が反転することに注意
この断面の断面二次モーメントIを等価断面と呼ぶ。ここで注意なのだが弾性係数の違いを仮想の幅で吸収しているのではりの変形、歪みは等価として扱えるが曲げ応力に関しては元の部材に対するものを正確に表したものではない。
ここで断面二次モーメントの特性を使うと次の式になる。部材に上端での応力をσ1、下端での応力をσ2とする。
$ σ1=-\frac{M}{I}e1 $
$ σ2=\frac{M}{I}e1 $
ここで等価断面は歪みがが元の断面と等しいことより元の部材のアルミの上端の応力は
$ \frac{σ1a}{Ea}=\frac{σ1}{Ef} ∴σ1a=-\frac{Ea}{Ef}\frac{M}{I}e2 $
となる。
まあ次の図のように変換できる。
まあこれは断面二次モーメントを複数計算するのが面倒なときに一つにまとめられるので楽である。
また2種類ではなく何種類でもこの方法でいける。
しつこく述べるがこの方法ではなくても各部材ごとのたわみを重積分法で求めて不静定のはりと見做せば解ける。
まとめ
今回も設計現場で頻繁に使ううようなものではないが概念は理解しておいて欲しい。
レイアウトやスケッチなどの構想するときに役に立つ。
今回のポイントは
ポイント
・はりに複数種類の荷重が加わるときそれぞれを分解して考え、後に足し合わせることができる。
・はりの不静定問題を解くときは、はりのたわみの関係式を考えるようにしよう。
・複数種類の材料が組み合った部材は、仮想の一つの断面に置き換えられその断面二次モーメント一つで表すことができる。
このくらいを理解しておけば大丈夫だ。
特に複合材は絶対に今後、採用が増加していくのでイメージできると便利である。
ここまででようやくはりのほとんどが説明できた。
次回は、はりの総まとめとして代表的な断面の断面二次モーメントとはりのたわみのデータ集を紹介する。
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初心者でもわかる材料力学13 代表的な断面の断面二次モーメント(断面の実際の使用例)
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初心者でもわかる材料力学14 代表的なはりのたわみ (はりの実際の使用例)
これらの次にようやく材料の破壊の入門で座屈を説明しよう。
基本的に本内容の教科書は存在せず筆者オリジナルだが筆者が学生から使っている教科書を紹介する。
もう一点、機械設計で必須の本があるので紹介しよう。
はっきり言って中身は不親切極まりないのだがちょっと忘れた時に辞書みたいに使える。このブログを見てくれれば内容が理解できるようになって使いこなせるはずだ。
またよく使う規格が載っているので重宝する。JISで定められて機械材料の特性が載っている。
多くの人が持っていると思うが持っていない人はちょっとお高いが是非、手に入れて欲しい。但し新品は高いので中古で購入を考えている方は表面荒さの項目が新JIS対応になっているのを確認することを強くオススメする。
さらにオススメしたいのがアマゾン キンドル アンリミテッドだ。アンリミテッドだと数多の本が月会費だけで読める(漫画〜専門書まで幅が広い)。
しかも流石、本屋が原点であるAmazonだけあって機械工学の専門書がそこそこ揃っていてかなり使えるサービスだ。
特に機械工学の専門書は高額になることが多いので少しだけ読みたい分野の本を眺めるのに非常に役に立つので是非、オススメしたい。
また本ブログをキッカケとしてエンジニアとしてステップアップして大きな仕事を掴む手段の一つとして転職するのも一つの手だ。
やはり予算の大きい機械設計、規模が大きい機械設計、大きな仕事をする場合は日本においては大手に入って仕事をする方がチャンスの機会が多いと思う。
私も最終的に転職はしていないが自分の将来を模索していた時期に転職活動をしていくつか内定を頂いたことがある。
折角なのでその経験(機械設計者の転職活動)を共有できるように記事に起こしたので参考にして頂ければ幸いだ。
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転職活動シリーズ1 私の転職活動概要(機械系エンジニア、30代半ば2010年代の中頃)
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