さて前回は破壊を包括する理論について説明してきた。
今回はもっと具体的に様々な破壊のケースごとに破壊を考えていく。
まずは、破壊には大まかにどんな種類があるのかを軽く説明した後にそれぞれのケース毎に詳細を説明する。
破壊の大まかな種類
破壊には、大まかに分けるとまずは、一発破壊と疲労破壊に別れる。
ここにクリープ破壊や脆性破壊という現象もあるが別枠で後でたっぷり紹介する。
一発破壊は名前の通り荷重が加わった時に一瞬で破壊する現象のことである。
一方で疲労破壊とはある一定の荷重が繰り返し掛かったり掛からなかったりするのをある一定回数を過ぎると破壊する。
まずは、一発破壊を考えていこう(疲労破壊に関しても後でたっぷり解説する)。
一発破壊には次の図のような種類がある。
大きく分けると引張りとせん断破壊の2種類だけである。
曲げによる破壊(はりのたわみ、長柱の座屈)は、掛かっている内力を分解すると引張り力、圧縮力、せん断力の3つに分けられるので結局、引張りかせん断破壊になる。
ここまでで圧縮力による破壊について一切、述べてきていないが実は、純粋な圧縮では部材は破壊しないのだ。
ただし変形はするので圧縮応力と歪みの関係は後で解説する。
まあ、圧縮でモノが壊れないと言ってもほとんどは座屈で壊れる。
これで一発破壊の主なラインナップは紹介した。
まずは引張り破壊から詳しく見ていこう。
引張り試験(応力ー歪み線図)
まず引張り破壊とは単純に引張り力による破壊のことである。まあ、単純に引張り荷重による引張り応力で破壊することである。
では、おさらいになるが応力ー歪み線図を見ていこう。
JISで定められている引張り試験片を引っ張って横軸に歪みε、縦軸に引張り応力としたグラフのことだ。
思い出して欲しいのだが、まずは、フックの法則に従う弾性域があってその限界点を降伏点(降伏応力)と呼ぶ。
さらに歪みが増加するとギザギザしたリューダース域がある。
さらに歪みが増加すると塑性域(元の形に戻らない)に入り最大引張り応力(引張り強度、破断応力)に到達して破断する。
塑性域では歪みを戻しても元に戻らない歪みを永久歪み、元に戻る歪みを弾性歪みに別れる。ここで再度、歪みを大きくしていくと弾性歪みに係数をかけた直線(一次関数)で元の応力に戻り、そこから先は応力ー歪み線図に従う。
基本的には弾性域内(降伏点以下)で設計することと以前に述べた。
また図のような応力ー歪み線図は粘りのある鉄(鋼)の場合で材料によってはカタチが異なる応力ー歪み線図を描く。
材料によってははっきりとした弾性域を持たないものも有りそのような場合は永久歪みが0.2%残る0.2%耐力点を仮想的な弾性域の降伏点と見做して設計するように述べた。
ここまでは完全におさらいだ。
次に、弾性域から先のリューダス域、塑性域、引張り強さまで詳細に見ていこう。
リューダース領域以降の引張り試験片の変形
では一旦、グラフから引張り試験片に戻って物体に何が起こっているのか見ていこう。
リューダース領域
まずはリューダス領域を見ていこう。
グラフでは歪みが増加しているのに引張り応力が増加しない不思議な領域である。
実際には何が起きているか考えてみよう。
まず歪みは増えているので試験片は変形をしているのはいいよね。
では試験片の伸びてる領域ではどんな力が働いているのかを見ていこう。
まず一番右の図に着目して元の断面abの点がそれぞれa’、b’に伸びたと考えよう。
a’とb’の伸び量が異なるのは少し複雑で一部の材料内の歪みによって原子に転位が発生すると大きく原子が移動するため伸び量も大きい。
一方で転位しない部分は単なる弾性変形なので歪みに応じた小さな変形を起こすので伸び量が小さい。
つまり同じ歪み量でで断面内で各部位によって弾性変形と塑性変形が同時に発生している。
この差で同じ断面でも部位によって伸びが異なるのだ。
伸び量に差が出るのが理解されたところで斜めに伸びた角度θの緑の断面a’b’面の内力を考えていこう。
断面a’b’には面に垂直な応力σと面に沿った剪断力τが存在する。元の断面abの断面積をAとし発生応力をσ0=P/Aとする。
これらを外力である引張り荷重Pとの釣り合いを考えると次の式が成り立つ。
面a’b’に垂直な方向 $ Pcosθ-σ\frac{A}{cosθ}=0 $
面a’b’に平行な方向 $ Psinθ-τ\frac{A}{cosθ}=0 $
式を整理すると
$ τ=\frac{P}{A}sinθcosθ=\frac{σ0}{2}sin2θ, σ=\frac{P}{A}cos^2θ=σ0cos^2θ $ 2sinθcosθ=sin2θ(2倍角の定理)
これより面の角度が45度の時(2θ=90度、sin(90°)=1)で剪断力が最大となり面が滑る。
面に垂直な応力σはcos^2θで小さくなるので無視する。しょぼい材料だと45°より浅い面10°、20°とかで面が滑る。
このような横滑りが断面に無数に現れ線になる。これを発見した人がリューダースさんなのでリューダース線と呼ばれる。実は破断面をよく見ると見えることがある。特殊な溶液を付けるとよく見える。
また応力ー歪み線図に戻るとこの滑りが起きている領域では歪みによる変形が斜面の滑りを発生させているので物体が伸びるだけで応力は上がらないのである。しょぼい材料は低い剪断力で横滑りするのでリューダース領域が短い。
断面の全ての面の横滑りが終われば応力と歪みが共に増加する塑性域に入って行く。
これがリューダース領域で起きている面白い物理現象だ。
塑性域
塑性領域は、簡単で比例関係ではないが歪みが増せば応力が増える。つまり変形すると応力が増大するのだ。
この塑性域での変形は単純に長さ方向は長くなるだけなく一方で試験片の断面積は痩せるのだ(絞られる)。
試験片のくびれの部分をよく見ると歪みの分だけ伸びて幅は痩せるのだ。この関係を示すのにポアソン比があったのを思い出してほしい。
では元の試験片の断面積をAとして変形して破断した後の断面積をA’とすると次の式が成り立つ。
$ 断面ちぢみ率、絞り率ψ(プサイ)=\frac{A-A’}{A}×100 $
で表され断面縮み率、絞り率と呼ぶ。単位は%。
一方で伸びも元の長さをlとし変形して破断した時の長さをλmaxとすると次の式が成り立つ。
$ 伸び率ψ(プサイの小文字)=\frac{λmax}{l}×100 $
となり伸び率と呼び値は%で表される。
ここの数字は材料の粘り(靭性)や脆さ(脆性)を判断するのに使う。
ただしポアソン比でも大体の感じはわかるので材料のスペックにはポアソン比のみ記載されていることが多い。
ポアソン比も超重要なので忘れた方はこちら
引張り強度、破断応力領域
最後の破断領域では、材料は急激にくびれて応力が下がった後に破壊する。
まあ材料によって最後に歪みが増加しても発生応力が下がらないで発生応力が材料の限界に達して破壊するものもある。
ここで重要なのは破壊した後の破断面をよく観察することだ。
リューダース線で少し述べたが材料の靭性によって滑りが例えば斜面10°、20°で発生する材料がある。
そのような材料の破断面は次の絵のようになる。左のモノほど靭性がなく脆いので浅い角度で滑る。
これが引張り荷重による一発破壊のメカニズムと破断面の様子だ。
身近なもので例えるとガラスなんかは硬くて脆いので一番左側のような破断面をする。実際に多くの人が見たことがあると思うが破断面は尖っているものの破断面自体は非常に綺麗で滑らかなはずだ。
次に針金やダブルクリップをぐにぐにと曲げて折った経験が多くの人が持っていると思う。あまり見ないかもしれないが破断面は図の真ん中のように断面の周囲に円上の山脈みたいな跡や真ん中が平らで外周がギザギザした破断面になっている。
一番左のような破断面は生活に身近なところではあまりないかもしれない。特に強度に必要なところで使うので機械などを普通に扱っている分にはまず壊れないところで使うので開発関係の人くらいしか見たことがないかもしれない。
この断面形状はとても重要でテストでモノが壊れた時に破断面を見てどのような材質でどんな荷重を受けて破壊されたのか判別ができるようになる。
これができないとテストで壊れた時にどの部品が壊れ部品の中でどの部位が破壊の起点になり破壊のモードが何だったか調べることができなくなる。
なので発生する応力と歪みの関係、破断面の見た目はとても大切なことである。
これらのデータを使って適切に材料を選ばなければいけない。材料に関する詳細(熱処理、結晶構造、スペック)は金属材料編で詳細を説明する。
これで引張り破壊(一発破壊)の説明を終わりにする。
まとめ
今回はほとんど応力ー歪み線図の復習になった。それだけ重要なことなのだ。
まとめると
・破壊には一発破壊と疲労破壊がある。
・一発破壊には、引張り力、剪断力、曲げによる破壊がある。曲げは引張りと剪断の組み合わせ
・圧縮力では破壊は発生しないが変形する
・応力歪み線図のリューダース域では材料の伸びた斜面で滑りを起こしている。
・破断した時の断面の絞り率、伸び率で材料の靭性がわかる。
・材料の物性によって破断面の形状が異なる。
・破断面の形状で引張り破壊であることと材質の特性がわかるようになるのが望ましい。
となる。
結局、一発破壊の検討の相棒は応力ー歪み線図になるのがよくわかったと思う。
この中でも特に身につけて欲しい能力が破断面を見ることによって破壊の種類と材質がある程度推定できるようになって欲しい。
これがわからないと製品の破壊のメカニズムがわからず銅のように対応すれば良いのか全くわからなくなる。
場合によってはコストアップ覚悟で材料を変える、肉厚を増やすなど手法はあるのだが破壊のメカニズムと原因が正確にわかってないと意味のない対策になり同じ失敗を繰り返すことになる。
筆者はレース車両のエンジンの開発をしているときにほとんどの部品を壊した。
また週に一度、ひどい時には2度、耐久試験を実施し毎回、壊れた経験を1年半くらい続けた。そのおかげでその破断した部品を探すことと破壊の起点を見つけることどんな破壊の種類で壊れたかがわかる技術が身に付いた。
今はシミレーションで合格してからテストをすることが多く若い人は破壊に接する機会が減っていると思うのだが数少ない破壊に出会えた時には全力で取り組んでこのようなスキル、仕事の流れを身につけて欲しい。
次回は,圧縮による物体の変形と剪断力による破壊、ねじれ破壊まで説明したい。
基本的に本内容の教科書は存在せず筆者オリジナルだが筆者が学生から使っている教科書を紹介する。
もう一点、機械設計で必須の本があるので紹介しよう。
はっきり言って中身は不親切極まりないのだがちょっと忘れた時に辞書みたいに使える。このブログを見てくれれば内容が理解できるようになって使いこなせるはずだ。
またよく使う規格が載っているので重宝する。JISで定められて機械材料の特性が載っている。
多くの人が持っていると思うが持っていない人はちょっとお高いが是非、手に入れて欲しい。但し新品は高いので中古で購入を考えている方は表面荒さの項目が新JIS対応になっているのを確認することを強くオススメする。
さらにオススメしたいのがアマゾン キンドル アンリミテッドだ。アンリミテッドだと数多の本が月会費だけで読める(漫画〜専門書まで幅が広い)。
しかも流石、本屋が原点であるAmazonだけあって機械工学の専門書がそこそこ揃っていてかなり使えるサービスだ。
特に機械工学の専門書は高額になることが多いので少しだけ読みたい分野の本を眺めるのに非常に役に立つので是非、オススメしたい。
また本ブログをキッカケとしてエンジニアとしてステップアップして大きな仕事を掴む手段の一つとして転職するのも一つの手だ。
やはり予算の大きい機械設計、規模が大きい機械設計、大きな仕事をする場合は日本においては大手に入って仕事をする方がチャンスの機会が多いと思う。
私も最終的に転職はしていないが自分の将来を模索していた時期に転職活動をしていくつか内定を頂いたことがある。
折角なのでその経験(機械設計者の転職活動)を共有できるように記事に起こしたので参考にして頂ければ幸いだ。
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