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Kazubara
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自動車メーカーの元エンジン設計者。15年の職務経験から機械設計の技術を伝授します。仕事などのご依頼は下のお問い合わせボタンからご連絡下さい。

初心者でもわかる材料力学24 破壊の総まとめ(破壊理論、転位、一発破壊、疲労破壊、クリープ破壊、脆性破壊)

これまで複数回に渡って破壊の説明をしてきた。

ここまでで物体の破壊に関することの基本は全て終わった。

また初心者でもわかる材料力学を順に学びたい人はこちらの索引からどうぞ

この破壊に関する内容は工業品、工芸品などの全てのものづくりに関わる人は知っておくべきことである。

何故ならばつくられたモノを使う人、周りにいる人の全ての安全に関わる非常に大切なことであるからだ。

場合によっては破壊の検討不足のためにモノを使用した人が怪我をする、死亡することもあるのだ。

さらに自動車、飛行機、船などの輸送機械は、使用する人だけでなく乗客やそばに人がいる場合は、巻き込まれて多数の死亡者が出ることもある。

建築物や定置機械、設備なんかはもっとやばい(原子炉の疲労計算を間違えたら数百年単位で人が住めなくなる)。

このようにモノによっては、小さな検討ミスが多くの人の生死に関わる重大な社会問題に繋がる可能性を持っていることを自覚しよう。

具の基本的な概念は、人にとって便利なもので幸福にすることが目的なので使っている人、周囲の人に不幸を与えた時点でこの世に存在してはいけないモなのだ。

大袈裟かもしれないが本当に起き得ることなので重大な責任感を持って取り組もう。

詳細は各破壊ごとにリンクを貼っておくので気になったことや忘れたことがあったら参考にしよう。

ちょっと説教くさくなって申し訳ないがこれからは倫理観がとても大切になってくるで覚えておいて欲しい(最近の一番大きな事故で倫理観を疑われるのは、福島原発事故)。

ではまとめて行こう。

目次

破壊の基礎理論のまとめ

まず材料、部材内部の応力や歪みがどのようになると破壊するのかを考えたのが破壊の基礎理論でたしか基本的には、5種類ほどある。

それぞれの名前、特徴を表したのが次の図である。

それぞれがどのような材料、応力の形態によって適切な破壊理論があるので特徴だけは、掴んでおこう。

これは手計算やエクセルなどの表計算で破壊を検討するときはあまり気にすることはないがこれから加速度的に増えるであろうコンピューターシミレーション(CAE:Computer Aided Engineering)では、必須になる。

結果表示(ポスト処理)をするときにどんな計算方法で算出したのかを必ず選ばなければならない。

このときに適切な破壊理論を選ばないとかなりやばいことになるので注意しよう。

次に計算量をそれぞれ比較する。

このように理論によって計算量が大きく異なる。企業ではタイムイズマネーなのでなるだけ無駄なことをせずに正しい結果を得ることが大切なので覚えておこう(大規模計算だとこの選択によって2〜3日くらいの時間がかかることがある)。

次に破壊理論で求めた応力はそれぞれどんな特性があるのか見ていこう。

ここで大切なのは、CAEでよく使う破壊理論は剪断歪みエネルギー(計算が速い)で、その結果の応力は全てスカラー(向きを持たない)ので応力の種類(引張り、圧縮、ねじり、曲げ)がわからないことに注意しよう。

それぞれの応力の形態によって同じ部材でも降伏点、破断応力、疲労限が異なるので間違えやすいので正確に読み取ろう。

例えば単純片持ち支持はりでせん断歪みエネルギー説で解いて発生応力(フォンミーゼス応力)を表示させたとしよう。

そうすると応力の値の大きさだけで表示されるのでパッと見では赤い色のはりの根元の圧縮がやばそうに見えるが圧縮より引張りのが破断応力が低いのではりの根元の引張り側の黄色部分が着目しなければいけないポイントになる(赤は目立つんだよ)。

これは簡単な例だから良いが複雑になると結構、混乱する。

このように簡単に勘違いが発生するのでCAEを実施するとき、人の実施結果を見るときは十分に注意しよう。

この項目の最後にもっとミクロな破壊の基礎理論をおさらいしよう。

それは原子の転位で次の図のようになる。

外力によって剪断応力が発生する。

剪断応力で結合が切れる。

変形によって移動した原子が近くの原子と再結合する。

これが破壊の基礎の概念になるので覚えておこう。ちなみに機械加工などもこの応用である。

では次から実際の破壊のおさらいをしていく。

一発破壊と疲労破壊など

では実際の破壊の形態を図にしたので一気に見ていこう。

大きく破壊を分けると一発破壊、疲労破壊、クリープ破壊になる。それぞれ単体での破壊は、稀で複合的に組み合わせて破壊は発生する。

なのでこの図は覚えて常に気にするようにしよう。

ではそれぞれの破壊の検討方法をおさらいしていこう。

一発破壊の検討

一発破壊には、大きく分けて引張り、ねじり、曲げの破壊がある(+圧縮による降伏)。

いずれの破壊でもそれぞれの材料強度を超えた応力が発生すると破壊する。

検討方法は、引っ張りなら応力-ひずみ線図、ねじりならせん断力(トルク)ーねじれ角線図、曲げなら応力ーたわみ線図を使う。

この材料特性は材料屋さんや自社の材料部門が必ずデータを持っているので取り寄せるようにしよう。

基本的には全て材料の降伏点以下(0.2%耐力)以下で扱うこと。ただしボルトの塑性締め(角度法)など使い捨てで使う道具の場合には降伏点に限らないが機会は少ない。

それぞれの詳細はこちら

まあ普通に設計していればいきなり一発破壊を起こすことは、ほとんどない。

次は疲労破壊

疲労破壊の検討

疲労破壊も大きく分けると引張り圧縮、ねじり、曲げによる疲労破壊の3種類になる。

いずれの破壊も一発破壊と同様に材料、応力の形態毎に疲労限度($ 10^7 $回耐える応力)を持っているのでそれを超えると破壊する。

ここで検討するために使う道具は、材料の疲労限度(両振り疲労限度)を示すS-N線図、材料にかかる変動応力を表す応力ー時間線図、材料の両振り疲労限と片振り疲労源と降伏点と破断点から作成される疲労限度線図を使う。

この中でS-N線図だけが材料屋さんや自社の材料部門が持っているデータで残りの繰り返し応力と疲労限度線図は設計者が作成することが多いのでつくり方は、理解しておこう。

またそれぞれの疲労源に対し次の特性を持つ

曲げの疲労限>引張り圧縮の疲労限>ねじりの疲労限

となる。

基本的には作成した疲労限度線図内に応力が収まっていれば$ 10^7 $回耐えるので機械においては良いとされる(建築、土木などは知らない)。

基本的に物体が破壊するきっかけはこの疲労破壊なので少しでも繰り返し荷重を受ける部品は、疲労限度内で扱うこと。ただし使い捨て部品や自動車レースのような厳格に部品の寿命管理が行われる場合はこれに限らない。

疲労破壊の詳細はこちら

次が最後のクリープ破壊

クリープ破壊、(低温)脆性破壊

このクリープ破壊のみが外力を一切受けずに破壊する厄介なものだ。

クリープ現象とは、部材に一定の応力を掛け続けると時間が経過すると歪みが増加すること。

もう一つ応力弛緩とは、部材に一定の歪みをかけ続けると時間が経過すると発生応力が低下する。

このクリープ現象によって発生する応力によって破壊が起きるのがクリープ破壊。

このクリープ破壊を検討するために次のようなクリープ曲線を使う。

基本的には、高応力、高温下でのクリープ歪みが大きいが常温でも高応力下では部材を破壊するのに十分な応力が発生するので注意が必要だ。

次に脆性破壊だが基本的に脆性が進んだだけで破壊することはなく材料が脆性化することで想定より弱い荷重で破壊することを脆性破壊と呼び、特に注意するのが低温脆性破壊だ。

金属材料は低温(0℃以下)にさらされ続けると硬くなり脆くなる。これを低温脆性と呼ぶ

この検討にはシャルピーー温度特性を使うが金属材料編で説明する。

この破壊の詳細はこちら

実際の破壊の様子

最後に実際に破壊が起きてしまったら破断面がどうなっているのかおさらいする。

まずまともな機械の破壊の順番は、

繰り返し荷重の入力→部材内に繰り返し応力が発生→部材の断面にダメージが蓄積→部材の断面の有効な面積が減る→応力が破断点を超えて一発破壊

になる。

従って破断面には、基本的には疲労と一発破壊の跡が残る。もし疲労の痕跡が全くないのであれば2次被害の可能性が高い。

では疲労の痕跡はどのようなモノかというと次の図のようなビーチマーク(貝殻模様)が残る。

またビーチマークの数で低サイクル疲労、高サイクル疲労に分けられ低サイクル疲労の場合は2次被害か設計ミス、想定外の外力によって発生する。

基本的にはビーチマーク(高サイクル疲労破壊)+一発破壊の跡が必ず残る。

疲労破壊の断面の詳細はこちら

では一発破壊の断面の様子はどうなるかおさらいしよう。基本的には材料物性に大きく依存する。

図では引張りのみ紹介しているがねじりも曲げもほとんど一緒で基本的に材料の靭性、脆性に大きく依存する。

また破壊が発生していなくても耐久テストなどを実施した部品は、全てクラックやリューダース線がないか確認しよう。

もしクラックやリューダース線が発見した場合、もう部材の降伏点を超えている兆候なので多くの場合で対策が必要になる。

引張り破壊の断面とリューダース線の詳細はこちら

なので用途によって使う材料は慎重に決めよう。例えば安全のために早めに壊したい場合は硬くて脆い材料で壊れたら人の安全に直で関わるとこは粘りのある強い材料などを使う。

まあほとんど製法とコストで材料が決まってしまうが設計者の考え、意志は持っておこう。

これらの破断面を頭に入れてもし破壊の現場に遭遇したら破壊の起点、形態を判別して真の原因を突き止めよう。

さらに起点からここまでの講座の知識を総結集して引張り、圧縮なのかせん断、ねじりなのか、たわみによる曲げなのか、座屈なのかそれとも局所的な応力集中なのかを判別しよう。

そこまでがこの材料力学の守備範囲である。

またAIやコンピューターは計算はするが破壊の原因は突き止めてくれない、つまり破壊が起きたときに原因を掴むためには知識を持った人間が必要なのだ。だから計算はできなくても良いから理解はしておかなければならない。

このような経験は、設計者、エンジニアとして財産になるので積極的に取り組もう。

最後にクリープ破壊、脆性破壊の様子について説明するがはっきり言ってそれら固有の特徴は、全くない。

かなり困る、いや実際に困った。

破壊の原因を突き止める行為で想定外の外力、製造時の欠陥、検討ミスなど全ての項目を洗って問題がない場合のみクリープ破壊、脆性破壊と判断できる。

しかも対策は材料を変えるか使用環境を変えるだけでそりゃ無理だよと言うことが多い。

良い経験にはなるができれば遭遇したくないタイプだ。

もし会社などで破壊に出会うことがなさそうなら身の回りのモノや生活していて破損したものがあったら軽く原因を考えると良いトレーニングになる。オススメだ。

まとめのまとめと今後の展望

この記事の内容がまとめなのでいつものようなまとめはやらない。

ただここまでの知識があれば材料のスペックの意味はほとんどわかるはずなので有効に材料を扱おう。

ただしつこく言うようで申し訳ないが破壊の検討は、あらゆる物体に対して実施なければならない超重要項目なのだ。

さらに破壊を理解するためにはここまで説明してきた応力〜応力集中まで理解していないと難しいと来ている。

ここまでで設計に必要な材料力学の基本は終わる。

少しだけ特殊な解き方が必要な応力の問題の解法の説明を加えた。

ただ3軸応力(組み合わせ応力)と歪みエネルギーは後で説明する。この2つもとても重要なのだが数学の偏微分と行列の知識が少し必要になるのでその説明が終わったら紹介する。

今後の展望だが、やっと図面を作成するための前提知識が揃ってきたので機械の構成要素であるネジ、バネ、歯車などの機械要素を説明する。

また数学的知識の重要性を筆者が再認識したので工業数学として講座を始めたい。

さらに設計者だけでなくビジネスマンの全てに役に立つ設計者の考え方があるので新しく講座を始めたい。

最終的にはエンジンの設計ができるところまで解説したいが先は、長そうだ。

今後もよろしくついてきていただきたい。

基本的に本内容の教科書は存在せず筆者オリジナルだが筆者が学生から使っている教科書を紹介する。

もう一点、機械設計で必須の本があるので紹介しよう。

はっきり言って中身は不親切極まりないのだがちょっと忘れた時に辞書みたいに使える。このブログを見てくれれば内容が理解できるようになって使いこなせるはずだ。

またよく使う規格が載っているので重宝する。JISで定められて機械材料の特性が載っている。

多くの人が持っていると思うが持っていない人はちょっとお高いが是非、手に入れて欲しい。但し新品は高いので中古で購入を考えている方は表面荒さの項目が新JIS対応になっているのを確認することを強くオススメする。

さらにオススメしたいのがアマゾン キンドル アンリミテッドだ。アンリミテッドだと数多の本が月会費だけで読める(漫画〜専門書まで幅が広い)。

しかも流石、本屋が原点であるAmazonだけあって機械工学の専門書がそこそこ揃っていてかなり使えるサービスだ。

特に機械工学の専門書は高額になることが多いので少しだけ読みたい分野の本を眺めるのに非常に役に立つので是非、オススメしたい。

また本ブログをキッカケとしてエンジニアとしてステップアップして大きな仕事を掴む手段の一つとして転職するのも一つの手だ。

やはり予算の大きい機械設計、規模が大きい機械設計、大きな仕事をする場合は日本においては大手に入って仕事をする方がチャンスの機会が多いと思う。

私も最終的に転職はしていないが自分の将来を模索していた時期に転職活動をしていくつか内定を頂いたことがある。

折角なのでその経験(機械設計者の転職活動)を共有できるように記事に起こしたので参考にして頂ければ幸いだ。

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