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コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓5 現代のレシプロエンジンと電動化 技術と政治(レシプロガソリンエンジンの発展)

前回は、ある意味で究極形だったガソリンレシプロエンジンを紹介させてもらった。

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓4 WWⅡの傑作レシプロエンジン(中島 誉、BMW 801、ロールスロイス マーリン、ライト R-3350 サイクロン18)

前々回でジェットエンジンが誕生し大空での主役は、譲ったもののまだまだガソリンレシプロエンジンは、進化して頑張っている。

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓3 ジェットエンジンの誕生(遠心式圧縮機、軸流式圧縮機)

今回はそんなガソリンレシプロエンジンと最近、流行りを通り越して国の政策になってしまった電動化を考えてみよう。

WWⅡ以前のレシプロエンジン

レシプロエンジンの夜明け

レシプロエンジンの原型はやはり蒸気機関がもとになっていて、まずは1600年台の後半にイギリスのニューコメンという人がまともに使えそうな蒸気機関を開発した。

それがあまり性能がよくないのですぐ後にイギリスのジェームズ ワットが改良を加えて効率化を達成し産業機械や輸送機械の動力源として爆発的に広がった。

ここまでは主な燃料が石炭なのだがフランス人のルノアールという人が1859年にガスを使った内燃機関を発明した。単純な2サイクル単気筒である。

そのすぐ後に筆者は頭の上がらない大人物にニコラウス オットーさんが熱サイクルという概念をつくり4サイクル、2サイクルエンジンの基本理論をつくった(厳密に言うと2サイクルはちょっと違う)。

筆者は、15年間のほとんどをオットーサイクルでご飯をいただきました。

そこに若き技術者ダイムラーとマイバッハさんが加わって本格的な4サイクルガソリンエンジンの開発が始まる。

ダイムラーベンツ、マイバッハのどちらも現代でも一流企業として残っている(マイバッハは微妙か?)。

この頃は蒸気機関が全盛で日陰ものの扱いの技術だった。

レシプロエンジンの発展開始

一方でアメリカでは大事件が起きた。

ライト兄弟が空を飛んだのだ。

ちょっとした小話だがライト兄弟が1903年に世界初の有人動力飛行に成功したときに確かに機体の設計、特に主翼をねじることによって飛行が可能になったことは有名な話だ。

でも実は、それまでの挑戦者と決定的に異なる技術は、イト兄弟自家製の12馬力の軽量なガソリンエンジンを使ったことが決定打になった。

当時(1900年頃)の一般的な動力源は基本的に高度な蒸気機関であってガソリンエンジンはまだまだ脇役。ガソリンエンジンはヨーロッパでカールベンツらが自動車にガソリンエンジンを載せたくらいしか実績がない。

しかもガソリン自体が当時では、ランプの燃料くらいにしか使い道のない液体だったので信じられないと思うが薬局くらいでしか扱ってなかった。

ライト兄弟はいち早くガソリンエンジンが重量に対する出力の高さ(重量比出力)に目を付けて採用することを決めて、最初はガソリンエンジンの製作を外注しようとしていたが誰にも相手にされないので自作した。

そのくらいの存在感だったのだ。

真のブレークスルーポイントは実は、このガソリンエンジンの採用だったりする。

ライト兄弟以前にも有人飛行は多くのチャレンジャーが挑戦しており機体のノウハウは、それなりに積み重ねられていたがガソリンエンジンを飛行機に採用したのはライト兄弟がほぼ始めてだ。

後は、皆さんのご存知のとおり飛行機は軍にとって、とても有用なことが認められ爆発的に進化したが同時にガソリンエンジンの有用さも認識され爆発的な進化が始まる。

その進化から溢れてきた技術が民生用の自動車ガソリンエンジンの発展に繋がる(お互いの技術開発が相互に影響しながら発展)。

当時、ライト兄弟も飛行機会社を立ち上げて新しい飛行機を開発するがやがて淘汰されカーチスライト社に吸収されあのB-29のバケモノエンジンのライト R-3350 サイクロン18を生み出すことになる。

ただ、ちょっと会社の名前が変わってしまったがライト兄弟の会社は、40年で12馬力から2400馬力に成長したのだ(馬力だけでは、比べられないが)。

単純に240倍だ。凄まじい。

単純に皆さんの現在の年齢から40年を引いた時代を考えて現在と比較してパワーが240倍でこんなに複雑化した原動機は、恐らく存在しないだろう、しかも量産でだ。

そんな40年間だったのだ。

現代のガソリンレシプロエンジンと電動化

現代のレシプロガソリンエンジンと電気をエネルギー源とした電動モーターを比較してみよう。

ガソリンと電池(電気)

執筆時点で話題になっている“2030年代に大半の機械の電動化を達成する“ことがかなり不可能に近い、特に電気自動車が難しいことを数字を使って具体的に示してみよう。

まず電気自動車に向けて動力源というと多くの人がガソリンエンジンとモーターの比較に目が向くと思う。

確かにモーターは、仮にエンジンと同じエネルギー(燃料)を与えられた場合の出力を発生させる効率は、エンジンより良いし、回転数のコントロール、トルク特性もなかなか扱いやすい(制御が楽)、その上で重量比出力もエンジンと同等以下くらいだ。

ここでポイントが仮にエンジンとモーターで同じエネルギー(燃料や電気)が与えられるというところが成り立たないのである。

見落としがちなのだがガソリンは危ないが安全で低価格で大量に持ち運ぶ技術(燃料タンクとか)が確立されている。

一方で執筆時点で電気を持ち運ぶ一番効率が良い方法がリチウムイオンバッテリーだ(スマホやハイブリットカーの電池)。

ではそれぞれの重量に対してどれだけのエネルギーを持っているか比較してみよう。

ガソリンは1L(比重が0.8なので800gくらい)当たりで32MJ(メガジュール)だ。

一方でリチウムイオン電池は、1kg当たり201wh(ワットアワー)だ。

これだと単位がバラバラで比較ができないので単位を合わせていこう。

まずガソリンの方を考えると燃料のもつエネルギーを直接、仕事の計算に使えないので仮に自動車で1時間に時速60km/hで超空いてる道路で60km走ったとしよう。

平均的な自動車でおよそ重量が1200kgで2000ccくらいのエンジン性能が自動車が60km/h出すのに2500rpm(回転)で30kwの出力が必要なことにしよう。

そうすると消費されたエネルギーはエンジンの出力が30kw(w:ワットは1秒毎に発生するエネルギーJ:ジュール)、なので1時間に直すと30k×60×60=108MJ(メガジュール)になってエンジンの熱効率を35%くらいにすると必要な燃料のエネルギーは108M×2.9(100/35)=313.3MJ(メガジュール)になる。

ガソリンは、1L当たり32MJのエネルギーを持っているので9.8L必要なことになる、重さは、7.84kgくらい(かなり燃費悪いね)。

まあ、現在の平均的自動車の実燃費が12kmh/Lくらいなので60km走るのにガソリン5L必要なので上の計算はおよそ6km/Lの燃費が悪いエンジンだと思ってくれ。

その7.8kgのガソリンは、1時間の間ずーっと30kwを出力し続けたので30kw×1h[kwh]と掛け算してkgあたりに直すと30[kwh]÷7.8[kg]で3.8kwh/kgになる。

一方で電気を見てみると有り得ないけど電池が持っているエネルギーが100%仕事に変換したとしても最新のリチウムイオン電池で201wh/kgなので、さっきのガソリンと比較すると3800:201で1kg当たりのエネルギー量は1/19しかない。

よってモーターの効率100%の電気自動車で1時間で同じ出力を得るためには、ガソリン1kgに対し19倍の19kgの重さの電池が必要になるのだ。

もしモーターの効率が80%(かなり良いモーター)だとしたら電池は、1.25倍の25kgくらいになる。

これで全部電気自動車にするなんて有り得ないでしょ。

しかもこの計算では、電気自動車を超有利にしてガソリンエンジン自動車を超不利にしてだ。

だから単純にガソリン車が50L満タンで400km走るとしたらガソリンの重さは40kgになり、一方で電池は19倍の重さが必要になるので760kgも必要になる。

これがかなり大雑把なエネルギー源(電気、ガソリンなど)を含めた原動機の効率比較になる。

エンジンの本当の燃費を知るためには皆さんがよく知っている燃費km/LではなくてBSFC(正味燃料消費率)という値を使う。

BSFCの単位はエンジンの出力1kw発生するのに必要な燃料の量gでg/kwと表される。

エンジニアは、これを使ってエンジンの燃費を比べるのだ。この値は外的要因(車両の状態、温度などの待機条件など)をなるべく取り除いた値になる。

これは、自動車会社にとって機密事項に当たるのであまり出回らない数字だ。

はっきり言ってこんなの使い物にならない。

だから売っている電気自動車は、電池の重さを300kg程度に抑えて航続距離が最も効率良く走行して200km〜250kmくらいの商品しかできないのだ。

しかもガソリンは、無くなれば単純に足せば良いが電池は化学反応なので充電するのに時間がかかる。

ちなみにリチウムイオン バッテリーの代表的な反応式は次のようになる。

$ プラス側 MO2 +Li^++e^- →LiMO2 $

$マイナス側 LiC → Li + C +e^- $

どんなに速く充電できても今のところガソリンの補給スピードより速くなりそうにない。

さらに電池は充放電を繰り返すと劣化するのだ。今のスマホだとかなり多く見積もって800回くらいだ。

しかもお気付きの方もいると思うがリチウムイオンバッテリーのマイナス側の電極はCでカーボンでできているのだ。

つまりリチウムイオンバッテリーを生産するたびにCO2は排出されるし、廃棄するときもCが入っているので当たり前だがカーボンが排出されるのだ。

一方でガソリンは、ガソリン自体は劣化するが持ち運びに使うタンクは、半永久的に持つ。

つまり趣味で使う分には、電気自動車が使えるところまで来たかもしれないが商用ベースや大切な物量で考えると例えば交通の主流である大型トラックや船、営業車などは、効率やコスト面から全く話にならない。

さらに乗用車でもガソリンエンジン単体で熱効率が40%を越え始めたしハイブリットなどのシステム全体で考えると効率はかなり高いだろう(。

しかも日本では珍しく内閣府が主導となって産学連携でSIPという研究プロジェクトを立てて一昨年の成果(2019年)でガソリンエンジン単体で熱効率51.5%、ディーゼルエンジンで熱効率50.5%を達成した。

これが実現化してハイブリットとかのシステム全体の効率を考えると恐らく少なくとも60%を超えるのではないかと思う。

さらに物流の主役である船の超大型ディーゼルエンジンは、システム全体で熱効率が80%当たりを達成している。

図は熱エネルギーの回収例。

このように筆者の適当な例の自動車ですら19倍なのに最新のエンジン技術を考慮すると差は、さらに広がる。

このように自動車では電気自動車のための効率が良いモーターなどが出てきてもボトルネックになる電池に、あと2〜3回くらい革命が起きないと使えない。

しかもエネルギーを蓄える量を19倍にしてやっと効率の悪い自動車と同等になる。

さらに電池の仕組みは化学反応なので質量当たりのエネルギー量を上げるためには、新しい実用可能な化学反応を見つけてこなくちゃならない。

現在で皆さんが主に使っているリチウムイオン電池は開発着手から普及までに25年くらいの時間が掛かっている。

これは、もう想像できないくらい難易度が高い。

このような基礎になる技術開発は、パソコンや通信速度などの性能競争のように毎年、性能が倍になるようなことはなく地道な積み重ねを根気強く続けた結果、始めて実現できるのだ。

政治と技術開発

政府は2030年までに大半の自動車の電動化とか言ってるけど後、9年しかない。

あまり時間がない上に金を掛ければ実現できるという問題ではない。

この辺りをどのように政府が考えているのか疑問だ。

筆者は決して電気自動車を始めとした電動化に反対しているのではなくてかなり高難易度な技術課題があることを正しく認識して挑戦して欲しいと考えているだけだ。

仮にCO2の排出量を減らしたかったら別に電気に拘らなくても既存の内燃機関の効率をメチャクチャ上げてからその内燃機関が排出する少しのCO2を還元したって良いわけだ(温暖化やカーボンの是非は別として)。

そうすればこの方法でも全体で謂わゆるカーボンニュートラルが達成できる。

確かにCO2はかなり安定した分子で還元するのは難しいのだが、既にCO2還元装置は存在するのだ。

電気分解もあれば触媒方式もあるし人工光合成もある。

電動化じゃなくても超高効率CO2還元装置が開発できれば世の中のムードは、一瞬で変わってしまうだろう。

最悪の場合は、CO2を地中に埋めても別によいわけだ。

あくまで目的が“CO2削減“で手段の一つに電動化があるだけで、もし違う手段で簡単に達成できる方法があればそれをやれば良いのだ。

その手段に対していろんな角度から十分に検討がなされた上で決めたかどうかが重要なのである。

目的が電動化ならしょうがないがけれども。

確かに、もし日本が新型超大容量電池の開発に成功すれば世界をリードできる。

しかしながら電池に投資をしまくって他が疎かになった時に電池の開発に躓いていると他の全ての分野でボロ負けになってしまい国力が減ると電池の開発どころではなくなる(リスクマネージメントの考え)。

なので税金を使って投資するのなら最低でもメリット、デメリット、リスクと技術課題くらいは、具体的に示して欲しい(解決方法はみんなで考えれば良い)。

ただのスローガンの“2030年に電動化する“ことは実現できないし”中途半端な投資の結果、失敗して何も残りませんでした”では困るのだ。

だって使う金や資源、時間は有限であり、さらには皆さんから集めた税金なのだからこれでは、まずいのである。

過去の大戦でも国や軍の方針、戦略を間違えて大失敗した教訓を活かさないとかなりまずいと思う。

ただのスローガンだけでは、先の大戦と同じように戦いに負けてしまうのだ。

輸送機器の原動機一つをとってもこれだけの大きな課題があるのに“他の分野も電動化する“と言ったら筆者では、とても想像できないくらいの課題があるのだろう。

政府が説明しないのならせめてマスメディアで分析して説明して欲しいものだ。

このように新しい分野や技術革新を起こしたい場合は、技術者は冷静に分析しメリット、デメリット、リスク、課題を正しく伝えることも技術者倫理の大切なことの一つになる。

筆者の完全な推測であるがコメットも世界初ジェット旅客機の称号に目が眩んでデメリット、リスク、課題がしっかりと共有されていたか非常に疑問である。

開発から初飛行さらに営業飛行開始がおおよそ4年半くらいでいくらなんでも速すぎる。現代でもこんなビックプロジェクトは最短でもおよそ6年で最長10年くらい掛かるのが普通だ。

コメットの開発の速さは異常に感じる。謎の圧力が掛かったとしか思えないのである。

このように非常に優れたガソリンーレシプローエンジンを高高度の空の世界で駆逐したジェットエンジンの登場は、とんでもない技術革命だったのである。

ここまででコメットの動力源は、ジェットエンジンが出てきて高高度を飛ぶための原動機は確保できた。

いざ大空に飛び立とうとすると機体技術者が“ちょっと待てえ“と叫んでいる。

一体何事だと聞いてみるとどうやら高高度飛行の実現のためには、機体にも相当、大きな技術課題があるようだ。

次回は、高高度飛行のための機体技術を見ていこう。

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓6 高高度飛行の機体技術の要 与圧室(安全、機能安全、フェールセーフ、ISO26262)

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  • この記事を書いた人

kazubara

輸送機器メーカーでの元エンジン設計者。15年の職務経験から機械設計知識を伝道します。また職歴を活かしてエアソフトガンをエンジニアリング視点で考えてみる。

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