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コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓3 ジェットエンジンの誕生(遠心式圧縮機、軸流式圧縮機)

前回までの解説で航空機用レシプロエンジンプロペラの進化を見てきた。

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓1 技術者倫理と1940年代の航空機用レシプロエンジンの進化(機械式過給機、スーパーチャージャー)
コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓2 WWⅡの航空機用レシプロエンジンとプロペラの進化(圧縮性流体、非圧縮性流体)

今回は、現代では航空エンジンの主流となったジェットエンジンの誕生を見ていこう。

ジェットエンジンの芽生え

ジェットエンジンの原理の発送自体は、1791年にイギリス人の手によって提出されているが実現までにはかなり時間がかかった。

実験室レベルの試作機でさえ、原理が提出されたから約100年ほど経った後の1903年にノルウェー人がやっと運転に漕ぎ着けたレベルだった。

しかしながら1900年以降に航空機の軍事的な重要性が高まると次世代動力源として本格的に研究され始めることになった。

特に研究に熱心だった国は、イギリスとドイツで1930年代に本格的に着手している。

ここで興味深いのが、正確ではないが様々な背景でイギリスは遠心式ジェットエンジンが主流でドイツは軸流式ジェットエンジンが主流となった。

ここでジェットエンジンだけでなく過給機にも必要不可欠な圧縮機(タービン、風車のこと)の説明を少しする。

圧縮機には、様々な種類があるがジェットエンジンや過給機で主流となっている遠心式圧縮機と軸流式圧縮機を紹介する。

遠心式圧縮機

今日でも自動車の冷却ポンプや過給機の主流は遠心式圧縮機になる。

遠心式圧縮機を簡単に説明するとまず圧縮機の形状は、円盤に幾つかの壁が立っていてその壁が羽根の役割をする。

これをインペラーと呼んでいる。

絵じゃわかりにくいので実物の参考例を載せておく。

これは自動車のエンジンの冷却水のポンプである。

当然、このインペラーだけでは、空気を圧縮できないので次のような渦巻き形状のケースに入れるのだ。

ここまでが構造で次にどのようにして空気などの流体を圧縮するのか原理を説明する。

step
1
インペラー(風車)が時計回りに廻される。

step
2
スクロール(渦巻きケース)の入り口から空気が吸われる。

step
3
インペラー(風車)に吸われた空気は、インペラーの円板に当って向きが90度変更される。

step
4
向きが変わった空気は、廻っているインペラー(風車)の羽根(壁)によって遠心力を与えられる。

step
5
遠心力が加わった空気は、外周方向に押し出される。

step
6
押し出された空気は、出口から出る。

 

このように吸い込む方向に対し円周方向に流体が押し出されるので遠心式圧縮機と呼ばれる。

インペラー(風車)の回転によって空気は、運動エネルギーをもらえるので出口の圧力は入り口に比べて高くなるのだ。

この原理で空気を圧縮するのだ。

面白いのが逆にインペラー(風車)を回転させないで出口のところから高圧力の空気を入れるとインペラー(風車)が廻って入り口から圧力の下がった空気が出ていくのだ。

単純化するとインペラーを回転させると回転エネルギーを流体の圧力に変換する装置で逆に高圧力空気を入れると圧力を回転エネルギーに変える装置なのだ。

次に軸流式圧縮機を簡単に説明しよう。

軸流式圧縮機

軸流式圧縮機の原理は、すごく簡単でちょっと強引な言い方をすると扇風機が軸流式圧縮機になる。

一応、構造を説明すると斜めに傾いた板を円周方向に何枚も付けると言っても飛行機のプロペラと同じである。

イメージはプロペラの板厚を小さくして羽根の枚数がたくさんになったものだと思ってもらって構わない。

この圧縮機の作動原理も超簡単でプロペラと一緒なのだ。(Vは、流速(空気の速度))

このように吸い込む方向と空気を圧縮する方向が同じなので軸流式と呼ばれている。

これも遠心式圧縮機と同じで軸流式圧縮機を廻せば空気が圧縮される、逆に軸流圧縮機に高圧空気を吹き付ければ羽が回転し回転エネルギーが得られるのだ。

基本的にこの2種類の圧縮機が輸送機器では、主に使われるのだ。

遠心式圧縮機VS軸流式圧縮機

ここで遠心式と軸流式でメリット・デメリットを簡単に挙げてみる。

遠心式のメリットは次の点だ。

遠心式のメリット

・小型化してもさほど効率が落ちない。

・構造が簡単で部品点数が少ない。重要なインペラーも比較的に簡単に製造できる。

・異物混入にちょっと強い。

・あるインペラー回転数に対し対応できる流量の範囲が大きい。

遠心式のデメリット

・軸流式に比べ同じ正面面積あたりの流量が少ない。

・圧縮力を上げるには多段かする必要があるが軸流式に比べ構造が複雑。

・一段で圧縮力を上げようとすると正面面積を大きくするかインペラーの回転数を上げるしかない。

・インペラーの回転数を上げると遠心力がインペラー軸の一点に集中して壊れやすい。

などなどだ。

図らずとも軸流式とは、逆になっている。

まとめると

ココがポイント

遠心式圧縮機は、小型化しても効率が落ちないが、更なる圧縮力強化のため大型化することが難しい。

軸流式は、小型化すると効率が落ちる。その代わり圧縮力を上げるために大型化、多段化がやりやすい。

なので比較的に小型で低〜中出力を求める場合は、遠心式圧縮機が多い。しかも安い。

一方で比較的に大型で中〜超高出力を求める場合は、軸流式圧縮機が多いのだ。

ここまででジェットエンジンの心臓部である圧縮機のおおよその説明が終わる。

そしていよいよジェットエンジンが誕生するのだ。

ジェットエンジンの誕生

先ほどドイツとイギリスが中心となってジェットエンジンの開発が1930年代に進んだことを説明した。

実用化は、ほんの少しのタッチの差でドイツが先だった。

まずドイツのジェットエンジンを紹介しよう。

軸流式ジェットエンジンの誕生(ドイツ)

1939年にドイツの超有名な飛行機会社のユンカース社がジェットエンジンの本格開発を決断した。

比較的、構造が簡単な遠心式ではなくて将来の大出力化を考えて敢えて苦難の道である軸流式ジェットエンジンの開発をすることに決めた。

ここで皆さんもお気づきだと思うがジェットエンジンの圧縮機は、レシプロエンジンの過給機とほぼ同じ技術なのでユンカース社の過給機の専門家のフランツ氏をリーダーとして開発を行なった。

一方で面白いのがほぼ同時期にBMW社も軸流式ジェットエンジンの開発を始めた。

BMWはそもそも航空機用エンジンメーカーなのだ。確かバイエルン発動機製造会社の略がBMWである。

ほぼ同時期に完成し1944年の初頭に量産が開始された。

そのジェットエンジンは次の図のように8段圧縮の立派なものだった(ユンカース ユモ004)。

色々な困難な課題があったもののなんとか量産に漕ぎ着けた。特に高音の排気ガスを受ける駆動力取り出し用の軸流式圧縮機の耐久性と運転回転数が高いため軸や圧縮機の開発で苦労した。

性能としては空気の圧縮倍率が3.14で推力910kg(8700rpm)だった。

ここで推力とは、単純にジェットエンジを垂直に立てて運転したら910kgの錘をギリギリ持ち上げる力を発生すると思ってもらって構わない。

この力を運転中は、ずっと出し続けるのでかなり強力なエンジンだ。

BMWもほぼ同時期に似た構造、性能のジェットエンジン(BMW 003)も完成した。

色々な政治的な横槍などがあったがなんとかこのエンジンは、メッサーシュミット Me262(シュワルベ 燕の意味)の両翼に吊り下げる形で2機(推力1820kg)を搭載して実戦配備された。

ジェットエンジン特有の欠点がいくつかあったものの当初の目的である高高度飛行、高速飛行は凄まじいレベルで達成した。

高高度性能は12900m以上で最高速度は869km/hで当時のレシプロエンジン機全てより性能が上回っていた。

当時のジェット戦闘機部隊の隊長アドルフ・ガーランド少将が初飛行の感想で“まるで天使が背中を押しているような感覚だ“と言ったらしい(嘘か本当か知らない)。

しかしながら時は、すでに遅しでドイツは戦争に負けるのである。

次にイギリスを見ていこう。

遠心式ジェットエンジンの誕生(イギリス)

イギリスもドイツ同様にかなり速い時期からジェットエンジンの開発に取り組んでいた。

ここで超有名エンジニアのフランク・ホイットニー(ジェットエンジンの父とか言われる)が1930年代から取り組んでおり軸流式の将来性がわかっていながらも早期の実現のためには遠心式であるべしと頑固に頑張っていた。

その後に自動車メーカーのローバー社(名車ミニクーパーを開発したとこ)と接触しやはりドイツと同様にレシプロエンジンの過給機の専門家フッカー氏と開発した。

色々あってどこの誰が最初の実用化に成功したのかは情報がありすぎてよくわからないが少なくとも初期の実用化された遠心式ジェットエンジンはデ・ハビラント社(後にコメットの開発、製造をする)のハルフォード・H1というジェットエンジンだった(1943年3月初飛行)。

こちらもドイツと同様に排気側にある軸の回転力の取り出し用の軸流式圧縮機でかなり苦労したがなんとか量産に漕ぎ着けた。

細かいエンジンのデータが見つけられなかったが恐らく空気の圧縮率は3.3前後で推力は、900kg前後でドイツのエンジンと同等だったと思われる。

ドイツの軸流式に比較し前後長は短いものの正面面積は大きかった。これは飛行機にとっては正面面積が飛行抵抗にかなり影響するので後の遠心式ジェットエンジンの大きな枷になった。

こちらは早速、グロースター・ミーティアの両翼に埋め込まれる形で搭載された。

こちらもドイツとほぼ同様の性能で高高度性能が13000mくらいで最高速度900km/h前後だった。

実戦配備が1944年7月で虎の子のジェット戦闘機だったためイギリス本土防空用に配備されたので実戦はほとんどなかった。

しかし時々、大陸から飛来するV1ミサイル(パルスジェットエンジン飛行機爆弾)を叩き落としていたようだ。

WWⅡの戦後にかなり普及して朝鮮戦争で活躍した。

ここまでがジェットエンジンの黎明期である。

ジェットエンジン黎明期のまとめ

このようにして軸流式と遠心式のジェットエンジンがタイミング良くほぼ同時に実現した。

ここで黎明期のジェットエンジンをまとめよう。

図が簡単なので軸流式ジェットエンジンで見ていく。

当時のレシプロエンジンは、エンジン自体も進化したが周辺機器である過給機、プロペラも爆発的に進化した。

特に過給機の進化が凄まじくて風車で圧縮した空気をわざわざレシプロエンジンに取り込まなくてもそのまま燃焼させれば良いかもと考えてしまった。

そう、これがジェットエンジンである(軸流、遠心式のどちらも)。

今までのレシプロ部分がなくなって過給機に燃焼室をくっつけるという主従関係交代劇が起きてしまった。

まさに発想の転換である。

いろいろ困難な技術課題はあったもののやってみたらなんとかなった。

しかも今までは、レシプロエンジンにプロペラを付けて推力にしていたがジェットエンジンでは体積が膨張する勢いをそのまま外に出すことで推力が得られた。

これは凄いことで当時の最先端技術のレシプロエンジンとプロペラを一瞬にして用済みになってしまったのである、ほぼ革命が起きたと言っても過言ではない。

ちなみのこの形式のジェットエンジンを正しくは、ターボジェットエンジンと呼ぶ。

ジェットエンジンの凄さと課題

このジェットエンジンは、空気の薄さによる高度の限界とプロペラによる速度の限界の2つを一気に乗り越えてしまったのだ。

さらに4サイクルレシプロエンジンだとクランクが2回転の内の半回転の間しか燃焼によるエネルギーが取り出せない(残りは慣性で廻っている)がジェットエンジンは常に燃焼しているので時間あたりの取り出せるエネルギー量が格段に多くなる。

またレシプロエンジンは、ピストンーコンロッドークランクによって往復運動を回転運動に変換しているがジェットエンジンは最初から回転運動で動いているので機械効率が良いのだ(もちろん回転数がそのままでは、使えないのでギヤなどで減速している)。

もう運転している間は常に燃焼しているのだ。

これで飛べる高度もスピードも性能が段違いになった。技術大革命である。

よし、これで有利に戦争するぞというところで日本がギブアップして終わった。

この技術革新は、構想期間を入れてもたった10年にも満たない期間で進化し実現した。レシプロエンジンが恐竜みたいな進化をしている最中、ある時を境にジェットエンジンになってレシプロ部分が無くなってしまった。

全く恐ろしいものである。

ただしジェットエンジンも良いことだけでなく欠点もある。

代表的なものだとまず燃費が超悪い(燃料お漏らし状態)にレスポンスが超悪い、さらにつくるのがメチャクチャ難しいのだ。

つくるのだけで考えても材料は、常に高温にさらされているし軸の回転数もかなり高いので高度な材料と希少な資源が必要になるし部品の加工精度に対してかなり高い精密さが要求されるのだ。

ただ戦後すぐに朝鮮戦争(1951年)が勃発したのでその期間に一気に航空機のジェット化が進んだ。

丁度、その頃に大英帝国が維新をかけて開発した世界初の四発のジェットエンジン旅客機が初飛行をする。それが1949年。

そう、これが後のコメットだ。

このような時代背景のなかで四発ジェットエンジン旅客機コメットがデビューを迎えようとしていたのだ。

なにしろ当時の最新の軍用機が高度12000mが限界に対しコメットも大体、同じ。

巡航速度が750km/hで当時のレシプロ戦闘機の最新鋭の最高速と大体、同じ。

大英帝国の一大国家事業が始まろうとしていた。

これで高高度飛行のエンジンが完成したのでいざ大空へとはいかないのがこの世の難しいところである。

現代で例えようがないのだが最新の戦闘機の最高速マッハ2.0くらいを旅客機で巡行速度でマッハ2.0の飛行機ができるようなもんだ(現在の旅客機の巡行速度がマッハ0.8くらいで海抜0m換算で900km/hくらい)。さらに気軽に宇宙旅行に行っているかもしれない。

次回は航空機用としては、メインでなくなってしまったレシプロエンジンの現代での進化概要とWWⅡの過給機のメカニズムを紹介する。

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓4 WWⅡの傑作レシプロエンジン(中島 誉、BMW 801、ロールスロイス マーリン、ライト R-3350 サイクロン18)

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  • この記事を書いた人

kazubara

輸送機器メーカーでの元エンジン設計者。15年の職務経験から機械設計知識を伝道します。また職歴を活かしてエアソフトガンをエンジニアリング視点で考えてみる。

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