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コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓4 WWⅡの傑作レシプロエンジン(中島 誉、BMW 801、ロールスロイス マーリン、ライト R-3350 サイクロン18)

前回でやっとジェットエンジンが誕生したわけだがレシプロエンジンは民生用で進化を続け大発展するのだ。

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓3 ジェットエンジンの誕生(遠心式圧縮機、軸流式圧縮機)

折角なので少し筆者の専門であるレシプロガソリンエンジンの現在を紹介したいがちょっと個人の趣味に走らせてもらう。

完全に筆者の趣味なのだがWWⅡの航空機用レシプロエンジンは、ある意味では究極のエンジンだったと思っている。

たぶん筆者の感覚だと同じものを現代につくろうとしてもかなり難しいと思われるくらい機械として複雑になっている(たぶん無理)。

前回で圧縮機の解説をしたので過給機を中心に少しWWⅡの航空機レシプロエンジンを紹介しよう。

WWⅡの航空機用レシプロエンジンの基本形

当時の航空機の性能は、日進月歩でエンジンにもより強力なものが求められていた。

そのためエンジンを高効率化させると共に巨大化させなければならなかった。

しかしながらレシプロエンジンは1気筒あたりの限界の大きさがある程度、決まっていて大型化するには複数の気筒を並べる必要があるのだ。

その配置の仕方が大きく分けて2種類あるので簡単に紹介する。

空冷星形エンジン

主に冷却方法の違いでもあるのだがまず空冷エンジンを紹介する。

空冷エンジンは読んで字の如く大気の風でエンジンを冷やすのでなるだけ各気筒が風に当たりやすいように配置する。

図のような放射状に配置するのだ。

しかしこれだと増やせる気筒数に放射状に設置しているので限界が出てくる。

そこで考えたのが2列、3列と後ろに足していくのだ。また風に当たりやすくするため後ろの気筒は、前列と角度をずらして配置するのだ。

こんな感じで大型化していくのだ。

正面から見ると星に見えるのと空気で冷却するのでこの形式を星形空冷エンジンと呼ぶ。

利点としては、構造が比較的に簡単であることだ。

一方で欠点は正面から見た時の面積が大きくて飛行機の場合だと大きな空気抵抗となってしまうのだ。

水冷(液冷)V型エンジン

次の配置はV型を紹介する。

まず正面から見るとVの形に気筒を配置するのだ。

そしてそのVを縦にどんどん繋げていって巨大化させる。

しかしV型だと風は正面にしか当たらないので奥の気筒は、冷却できないのだ。

冷却できないと困るのでエンジンの中に冷却するために水通路を通して水(本当は水ではない)で冷やすのだ。

その水は当然ながら熱くなるので熱交換器、冷却機(ラジエター)を使って冷やすのだ。

このエンジンの形式を水を使って冷やすのとV型に配置しているので水冷(液冷)V型エンジンと呼ぶ。

こいつの利点としては正面から見た時に面積がかなり小さいので飛行機の場合だと空気抵抗が減ってかなり性能に効くのだ。

一方で冷却機や冷却水を使うので比較的に構造が難しくて生産するのが難しかったり面倒なのだ。

こんなところが当時の航空機レシプロエンジンの主な形式になる。

WWⅡの各国の最高峰エンジン

ここから各国の最高峰のエンジンを紹介しよう。

読者から過給機の前に燃料噴射装置がついているのはおかしいと指摘をもらったことがあるが彼の意見は、過給機で空気を圧縮する前に燃料を混ぜたら断熱圧縮効果で引火して危険だからあり得ないという主張だ。

残念ながらガソリンは、そんなに簡単に燃えてくれないのだ。ガソリンの引火する温度は、最低で300℃でなかなか燃えてくれないのだ。

筆者の専門のエンジンでは自着火式エンジン(点火プラグがないやつ)で断熱圧縮でガソリンに引火しようとするとおおよそで15倍ほど圧縮しないと火がつかない(他にもたくさんの条件がある)。

つまり過給機で空気を圧縮できるレベルは精々で2〜4倍程度なのでガソリンに引火することはないのだ。

特に大戦機に使用された高オクタン化ガソリンだとなかなか引火しないのだ。

本当はエンジンの中身もじっくりと解説したいがそこは堪えて過給機に着目して紹介していこう。

日本の発動機 誉(中島飛行機)

まずは我が国の日本が誇る悲劇の発動機 誉を紹介しよう。

本当は筆者は、誉より火星とか金星、護などの大排気量エンジンが好みなのだが有名なので誉にする。

まあ、筆者の感覚だと量産に成功したとは言えないが当時の日本の発動機技術の頂点だったことは、事実なので見てみよう。

このエンジンは超有名なので知っている方が多いと思う。

こいつは、空冷星形である。

1000馬力級の栄エンジン(空冷)をベースに14気筒から18気筒にし排気量(2列のまま)を増やしさらに高圧縮、高回転化を図り2000馬力クラスを目指したエンジンだ。

まあこの辺のエンジンの話は有名なので、敢えて補機類(過給機)に注目してみる。

エンジンはなんとか進化したのだが実は、この補機類があまり進化できなかったのだ。

この時代の注目技術である過給機は、栄の後期型と同じ機械式過給機1段2速だった。

筆者の個人の見解だとこの過給機の進化がイマイチだったのがかなり大きかったと思う。

ではどんなレイアウト(配置)か見てみよう。

かなり複雑に見えるかもしれないが航空先進国の他国はもっとすごかった。

しかし当時のパイロットはかなり操縦が大変だっただろう。飛行機の機体の操縦に加え推進機械でも過給機の変速、燃料供給量の調整、エンジン回転数の調整、エンジンの点火時期、プロペラの変速機、プロペラのピッチ角を調整しなければならないのだ。

大忙しである。

日本も燃料供給装置や空冷エンジンの技術は良かったものの過給機と電装系とプロペラがヤバいくらいに遅れていたのがかなり痛い(ガソリンの質の悪さもかなり痛い)。

一応、過給機もインペラーの回転数を上げて過給圧を0.5atmから0.7atmくらいまで上げたけど、1段の過給機ではこれが限界だと思う。

最後に水ーメタノール噴射装置をつけたのは、上手くいったけど焼け石に水だった。

結局、一番性能が良い数字は、高度0mの離昇出力2000馬力/3000rpm/0.7atmブースト(大気圧の1.7倍)だった(排気量35.8L)。

改めてみるとこの大きさで3000rpmは、回転数が高すぎてかなりやばそうだ。

採用機種は、陸軍が大東亜決戦期 4式戦 疾風(キ−84)で海軍が紫電改が有名どころか。

プチ自慢ですが何故か会社にフィリピン沖で墜落した零戦の後期型の栄エンジンの一式があって手に取って半日くらい見てました。

とにかく凄かった。

次にドイツに行こう。

ドイツの発動機 801(BMW)

ドイツのレシプロエンジンの有名どころだとダイムラーベンツ社の水冷(液冷)エンジンのDB601シリーズだと思う。

あのBF109に搭載されていたエンジンだ。

だが敢えて大戦後期に活躍したBMW 801(空冷エンジン)を紹介する。Fw 190に搭載されていたエンジンだ。

このエンジンはかなりオーソドックスにまとめられていて一列7気筒を2列並べて14気筒だった。

無理をしていない設計なので信頼性や生産性はかなり高かったようだ。

しかしながら流石のドイツでエンジンの補機類のレベルが高すぎぎるのだ。

一番、量産されたBMW 801 D2を見ていこう。

過給機はオーソドックな1段2速の機械式過給機だ。

レイアウト(配置)を見ていこう。

エンジンと過給機はオーソドックスなのだが推進機械の各制御をアナログコンピューターで最適化していたのだ。

また燃料供給装置も普通はキャブレターと言ってベルヌーイの法則を利用して空気と燃料を混ぜるのだが(霧吹きみたいな感じ)ドイツは、機械式ポンプを使って空気に燃料を供給していたのだ(メカインジェクション)。

なので日本みたいに各装置の調整は必要なくてエンジン推力レバー(スロットルレバー)操縦桿だけで最適な飛行ができるように制御されているのだ。

はっきりいってオーパーツレベルである。

これに加えドイツは、ジェットエンジンやロケットエンジンの実用化まで達成しているのが凄すぎる。

このエンジンは水ーエタノール噴射装置(本当は違うけど、MW50)を装備して高度0m 離昇出力1600馬力/2700rpmだった(排気量41.8L)。ブースト圧がわからないがおそらく日本と同じ0.7atm(大気圧の1.7倍)くらいだろう。

単純なスペックだけでは誉より低いが扱いやすさ、生産性、信頼性はこれのが上だろう。

さらに戦争終了間近には、過給機が2段4速になり2400馬力ほど出たらしいので素性はかなり良かった。

次にイギリスを見ていこう。

イギリスの発動機 マーリン(ロールスロイス)

このロールスロイス マーリン エンジンはWWⅡで最も成功したエンジンなのではないかと思う(筆者はグリフォンやネイピア セイバーが好き)。

なんてたって飛行機では名機スピットファイヤ、モスキート、ランカスターに積まれさらに地上用に改修され名前はミーティアエンジンになったがクロムウェル巡行戦車、チャレンジャー巡航戦車、コメット巡航戦車、センチュリオン戦車に搭載された超万能エンジンである。

さらには大西洋を渡ってアメリカでライセンス生産され究極戦闘機P−51Dムスタングに積まれている。

設計、量産開始はとても速くて1936年に開始されたて性能も大したことはなかったがイギリス人特有のしつこさとあきらめの悪さでコツコツ改良していき、ほぼこのエンジンだけで戦い抜いた。

初めは離陸時出力が850馬力クラスだったのが終戦直前では2000馬力になっていたから恐ろしい。

とにかくイギリス人は諦めが悪くてコツコツと頑張って改良するのだ。なんてたって筆者確認でマーリンⅡからマーリン66までありそうだ。

途中に欠番もあるだろうが異常なアップグレード回数である。

さてエンジン自体の話にすると筆者の大好きな液冷V型12気筒エンジンである。星とはちょっと違うのだ。

12気筒は、レシプロエンジンではあらゆる振動を完全調和する配列で誰もが夢に見る完璧なレシプロ機関なのだ。

まあエンジンの中身でもたくさん紹介したい部品はあるのだが今回はグッと堪えて全体像を見ていこう。

WWⅡ後期のロールスロイス マーリン66のレイアウトを見ていく。過給機は機械式だが究極型の2段2速で燃料供給装置との連動型に圧縮空気冷却機(インタークラー)付きだ。

一気に複雑が増した感じがするだろう。かなり簡略化して書いてもこうなってしまった。

これは機械式過給機の究極型の一つだと思う。しかもエンジン出力レバー(スロットルレバー)と過給機が連動していて簡単な制御を実施していたらしい。

こいつの性能がかなりすごくて高度1600mで2000馬力/3000rpm/1.27atmブースト(大気圧の2.27倍)だ。

これで排気量がたったの27.4Lでかなり小さいエンジンなのだ。

日本が35.8Lでドイツが41.8Lに対し65%〜85%くらいの排気量でこれだけのパワーを出しているのは驚愕に値する。

かなりの化け物クラスである。

数字だけ見ると誉のそんなに性能差がないが高度が上がると段違いで5000m以上では勝負にならないくらいマーリン66のが上だ。

過給機の性能が違いすぎるのだ。

これがバンバンつくられて多くの飛行機だけでなく戦車にも搭載していたのだから恐ろしいものだ。

さらにジェットエンジンを開発していたのだからさすがとしか言いようがない。

戦後もしばらく使われアメリカでは飛行機ファンの趣味であるエアレースでこのマーリンエンジンシリーズは今でも大人気である。

一昔前だがレースでは、チューニングされて3000馬力を出すらしい。

ラストのアメリカを見ていこう

アメリカの発動機 Rー3350 サイクロン18(ライト社)

ラストにふさわしいアメリカの化け物 Rー3350 サイクロン18を見ていこう。

これは空冷星形エンジンである。

このエンジン自体は、あまり有名でないかもしれないがあのBー29の四発エンジンである。

爆撃機用の大型エンジンなのでここまで紹介した各国のエンジンと毛色が違うのだが筆者の考えでは、WWⅡで出てきたレシプロエンジンの究極型の一つだと思うのでどうしても紹介したい。

このエンジンは半端じゃなくて一列9気筒の2列で18気筒で誉と一緒なのだが排気量が54.9Lという巨大なエンジンだ。

しかも当時の最新技術の排気ガス式過給機を2個もつけている化け物だ。

さっそくレイアウト(配置)を見ていこう。

凄まじい複雑さだ。

これがWWⅡのころのレシプロエンジンの究極形の一つだと思う。

しかも燃料供給機が途中から機械式ポンプ(メカインジェクション)に変わってから信頼性が大幅に上がったらしい。

出力も化け物クラスで高度0mの離昇出力が2200馬力/2800rpm/ブースト圧不明だ。

さらに恐ろしいのが過給機が付いていても普通は、高度が上げれば多少でも出力が落ちるのだがこのエンジンはなんと高度10000mで2500馬力/2800rpm/ブースト圧不明でむしろ上昇しているのだ。

ブースト圧がはっきりとわからなかったが、たぶん2atm(大気圧の3倍)くらい掛かっているレベルの出力の出方だ。

これが4個も付いているBー29はかなり凄い。

しかも54.9Lもの大きなエンジンを2800rpmも回転させているのがかなり凄い。

この辺りが各国の最高峰のエンジンである。

WWⅡのレシプロエンジンのまとめ

各国の当時の最高峰のエンジンを個別に見てきたがまとめてみよう。

1940年以前の航空機レシプロエンジンは、1000馬力にも満たない出力だったがたった5年くらいで倍の2000馬力超えになってしまった(馬力だけじゃ評価できないけど)。

機械においてこんな技術進歩スピードは筆者は、他に知らないくらいだ。

こうしてみると当時の日本もエンジンのスペックだけを見るとかなり頑張っていたが他の数字に目を向けるとかなり厳しい状況だった。

紹介したエンジンだけを比較する。

生産開始時期で見ると 日本(1942年)>アメリカ(1942年)>ドイツ(1940年)>イギリス(1939年)となる。

まあマーリンは、随時アップデートを掛けていたので生産時期だけを比較してもあまり意味がないが基本骨格は1939年にできていた。

生産台数で見ると 正確ではないがおおよそ イギリス(17万機くらい)>ドイツ(6万機くらい)>アメリカ(3万機くらい)>日本(1万機未満となってしまう。

稼働率や信頼性などを見ていくとさらに差は大きくなるだろう。

こんな感じで日本もかなり頑張ったが基本的な工業力の差があってなかなか厳しい状況だった。

いずれにせよここまで紹介したかなり複雑で高価な機械をたった5年程度の期間に何万機クラスも生産していたのはある意味で狂気じみている。

まあそういう凄い時代だったのだ。

普通の過給機の配置

ここまで紹介したエンジンは流石に当時でも最高峰クラスなので過給機の配置や形状がかなり凝ったつくりになっている。

このままだと過給機の複雑さだけを説明することになるような気がして気がひけるので普通の配置を紹介する。

その配置は当時も現在のレシプロエンジンもほとんど同じだ。

ではレイアウト(配置)を見ていこう。

かなりシンプルで排気側に駆動力取り出し用の遠心式圧縮機を置いて同軸で吸気側の遠心式圧縮機と繋ぐのだ。

そうすると吸気側の遠心式圧縮機が回転して吸入空気を圧縮する、圧縮した空気は熱くなるので冷却機(インタークーラー)で冷やしてからエンジンに入れるのだ。

これが今も昔も変わらない一般的な過給機システムだ。

細かく言えばこのセットを2個つけたり圧縮機のスクロール(カバー)の形を工夫したり(ツインスクロールターボ)など色々あるが基本は同じである。

謂わゆるターボ車に乗っている人はこれがくっついている。

この過給機もかなり進歩していてエンジンの耐久性も大きく関係するが20年くらい前までは0.8atm(大気の1.8倍)くらいがやっとだったのが2020年の今ではおよそ1.5〜1.7atm(大気圧の2.5〜2.7倍)くらいまで圧縮できるのだ。

今後、どのように進化するのか楽しみである。

次回は、現代のレシプロエンジンを少し解説してエンジンを話題に政治と技術を見ていこう。

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓5 現代のレシプロエンジンと電動化 技術と政治(レシプロガソリンエンジンの発展)

なんかこのままエンジンの説明に手を出すと永遠に書けそうなのでこの辺りでやめときます。もし筆者の専門の機械、エンジン、生産分野で軍用機械(小火器、砲、飛行機、戦車、兵站など船は苦手)の解説のリクエストがあれば別で独立したジャンルで紹介します。

ちなみに筆者の愛読書でレシプロエンジンの一番、熱かった時代を書いたエンジンのロマンという本を紹介しておく。これは筆者にとってバイブルで読む用、保管用、予備の3セット持っている。興味があれば非常に面白いし現役の設計者がいればきっと役に立つ。

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  • この記事を書いた人

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輸送機器メーカーでの元エンジン設計者。15年の職務経験から機械設計知識を伝道します。また職歴を活かしてエアソフトガンをエンジニアリング視点で考えてみる。

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