前回のはりの応力の最後に案内した通り断面二次モーメントについて解説していく。
断面二次モーメントは機械設計で構造物を設計するときにとても大切な概念だ。
とても大切な割には意味を理解している人はあまり見ないという珍しいモノだ。
多くの断面での断面二次モーメントは公式化されていて表を見れば値がわかるので理解が浅くてもなんとかなってしまうのだ。
しかしながら新しいモノを設計するときに考え方がわかっていないと過去の流用しかできなくなってしまう。
創造できる設計者を目指して是非、理解して欲しい。
また今回の説明は多くの教科書では断面二次モーメントの定義をしてから梁の曲げ応力を説明することが多いのだが筆者の経験から逆から説明した方が納得できると思う。
よってまず梁の応力をみながら断面2次モーメントを理解していこう。
梁の曲げ応力
前回の梁の応力の解説で梁の内部には剪断力と曲げモーメントが発生することが理解できたと思う。
今回も例題を設定して考えていこう。
単純な両持ち梁の真ん中に荷重Pが掛かったとする。その梁から真ん中の微小区間を取り出すと剪断力Qと曲げモーメントMが発生している。断面は適当な四角形にする。
ここまでは理解できるはずだ。ここで剪断力は置いといて曲げモーメントだけに着目する。
取り出した微小区間をさらに真ん中で分割すると次の図のように断面内に応力が発生している。
断面内に発生している応力は曲げモーメントによって発生しているので次の図のように引張応力と圧縮応力が存在する。
イメージとしては割り箸を曲げて折るときに反っている側からパキッと折れるはず(内側から折れることはない)。その曲げる力が曲げモーメントでその時に折れた断面で発生しているのが上の図の応力だ。棒が折れるのは引張応力によるのだ。気になる人は勿体無いけど割り箸を折ってみよう。
このように曲げモーメントによって発生する応力を曲げ応力と呼ぶ。
この曲げ応力の大切な特性の一つは断面の引張と圧縮の2つの曲げ応力は足し合わせると互いに打ち消しあって0になるのだ。理由としては応力の発生源が曲げによるモノなので引張も圧縮も同じになる。
曲げ応力が引張から圧縮に変化するポイントを中立軸(3次元で考えると線になる)、曲げ応力が発生していない面を中立面と呼ぶのだ。
次にもっと具体的に曲げ応力を考えていこう。
曲げ応力、曲げモーメントと断面一次モーメント、断面2次モーメント
具体的に説明するために例を設定する。
例題は上記の曲げ応力の例題と同じにする。ただし式を求めていくので図に座標と寸法を追加する。上で考えたように剪断力Qは置いておき曲げモーメントMに着目する。
取り出した微小区間は変形している(曲がる)。このときの変形の曲率半径をρ(ロウ)とする(半径と思ってもらって構わない)。曲率半径ρが示す半径ははりの中央の面までの距離(図中の青い線)で任意の座標yの半径はρ+yになる。
座標は梁の中心(中立軸)を原点とし右方向をx、曲がりに対して径方向をyとする。
まず任意の距離yにある面M-Mのx方向の歪みを考えてみよう。
面MMの変形後の長さは(ρ+y)dθで変形前の長さは図よりdxなので歪みεxは次のようになる。
$ 歪みεx=\frac{(ρ+y)dθ-dx}{dx} $
歪みの式には変数がy、dθ、dxと3つ存在して考えにくいので変数を減らす策を考えていく。減らす変数はdxを狙っていく。
ここではりの重要な仮定である“変形前に平面であった断面は変形後も軸線に垂直な平面を保つ“を考える(ベルヌーイ-ナビエ)。
仮定の文言は意味が分かりにくのだが言い換えると“変形しても変形面の位置は変わらず平面のままとして考える“ということで実際にはりがたわむと面は湾曲するが平面のまま考えましょうということだ。
図解すると以下のようになる。
図から変形前のdxは面NNの長さと同じと考えられるのでdx=ρdθとできる(面NNは中立面)。
これで歪みの式を書き直すと以下のようにできる。
$ εx=\frac{(ρ+y)dθ-dx}{dx} =\frac{(ρ+y)dθ-ρdθ}{ρdθ}=\frac{y}{ρ} $
歪みεxから曲げ応力σxを求めると
$ 曲げ応力σx=E(弾性係数)εx=\frac{E}{ρ}y $
になる。
次にはりの断面の大切な特性の一つである断面内の曲げ応力を足し合わせると0になることを曲げ応力σxを使って考えていく。
断面の応力の足し合わせるは積分を使って式にすると以下のようになる(断面積はAとする)。
$ \int_{A}σxdA=\frac{E}{ρ}\int_{A}ydA =0 $
この式の中の$ \int_{A}ydA $を断面一次モーメントと呼ぶ。
式の中のEとρは定数で0ではないので曲げ応力が0になるということは断面1次モーメントが0であることを意味する。さらにはりの断面の座標原点を中立軸に取った場合に断面1次モーメントは0になるのだ。
次に断面での原点o周りのモーメントを考えていく。曲げ応力によるモーメントと曲げモーメントMは等しいので次の式が成り立つ(そもそも曲げ応力は曲げ応力によって発生している)。
$ \int_{A}σxdA × y=\frac{E}{ρ}\int_{A}y^2dA=M $
ここで式の中の$ \int_{A}y^2dA $を断面二次モーメントという。断面二次モーメントは曲げ応力によるモーメントを求めるための変数だ。
断面2次モーメントをいつも$ \int_{A}y^2dA $で書くと面倒なのでIzとする(中立軸のz軸方向の意味)。
Izを使って曲げモーメントの式を表し直す。
$ \frac{E}{ρ}Iz=M $
この式からEとρを$ 曲げ応力σx=E(弾性係数)εx=\frac{E}{ρ}y $を使って消すと
$ σx=\frac{M}{Iz}y $
となる。この式からはりの非常に重要な特性のはりの断面に発生する曲げ応力は曲げモーメントと断面2次モーメントで決まる(弾性係数E、曲率半径ρに寄らない)。
つまりはりの断面内の曲げ応力は断面2次モーメントが大きいと曲げ応力は小さい、断面2次モーメントが小さいと大きくなる。
ここではりの上面、下面をそれぞれh1、h2とすると上面は圧縮、下面は引張りなので発生する応力は次のように表せる。
$ σ1=-\frac{M}{Iz}h1、σ2=\frac{M}{Iz}h2 $
ここで
$ Z1=\frac{Iz}{h1}、Z2=\frac{Iz}{h2} $
とすると曲げ応力は次のように表せる。
$ σ1=-\frac{M}{Z1}(圧縮)、σ2=\frac{M}{Z2}(引張) $
Z1、Z2は断面係数と呼ぶ。
これで断面1次モーメントと断面2次モーメントが導き出される。
まとめ
ここまでではりの断面に発生する曲げ応力の性質を利用して断面1次モーメントと断面2次モーメントを導いた。
筆者流ではそれぞれを次のように頭に入れている。
断面1次モーメントは“たわんだはりの微小区間断面に作用する曲げモーメントによる曲げ応力の総和0で定義、式は1次“。
断面2次モーメントは“たわんだはりの微小区間断面に作用する曲げモーメントによる曲げ応力のモーメントの釣り合い、式は2次“。
断面一次モーメントと断面二次モーメントをまとめると以下のポイントだ。
・$ \int_{A}ydA $を断面一次モーメントと呼ぶ。
・断面一次モーメントははりの断面の原点を中立軸にとると0になる。
・$ \int_{A}y^2dA $を断面二次モーメントと呼ぶ。
・はりの断面の曲げ応力は曲げモーメントと断面2次モーメントで求められる。
・断面二次モーメントが大きいと曲げ応力は小さくなる小さくなり逆に小さければ曲げ応力は大きくなる
になるついでに断面係数Zもかなり便利なので是非、覚えといてくれ。
$ Z1=\frac{Iz}{h1}、Z2=\frac{Iz}{h2} $
筆者が経験した実践的な断面二次モーメントの影響は構造物に対して少しの荷重しか掛けていないのにリブの表面に亀裂が入ったことがある。
それは断面係数が小さいリブで補強の意味が全くなかった。
このように良かれと思ってリブなどの補強をつけても断面係数がしょぼいと意味がないだけでなく、以前より高い曲げ応力が発生し破壊のきっかけになることがある。気をつけよう。
次回は、実際に断面二次モーメントの求め方と数学上の特性を説明する。
基本的に本内容の教科書は存在せず筆者オリジナルだが筆者が学生から使っている教科書を紹介する。
もう一点、機械設計で必須の本があるので紹介しよう。
はっきり言って中身は不親切極まりないのだがちょっと忘れた時に辞書みたいに使える。このブログを見てくれれば内容が理解できるようになって使いこなせるはずだ。
またよく使う規格が載っているので重宝する。JISで定められて機械材料の特性が載っている。
多くの人が持っていると思うが持っていない人はちょっとお高いが是非、手に入れて欲しい。但し新品は高いので中古で購入を考えている方は表面荒さの項目が新JIS対応になっているのを確認することを強くオススメする。
さらにオススメしたいのがアマゾン キンドル アンリミテッドだ。アンリミテッドだと数多の本が月会費だけで読める(漫画〜専門書まで幅が広い)。
しかも流石、本屋が原点であるAmazonだけあって機械工学の専門書がそこそこ揃っていてかなり使えるサービスだ。
特に機械工学の専門書は高額になることが多いので少しだけ読みたい分野の本を眺めるのに非常に役に立つので是非、オススメしたい。
また本ブログをキッカケとしてエンジニアとしてステップアップして大きな仕事を掴む手段の一つとして転職するのも一つの手だ。
やはり予算の大きい機械設計、規模が大きい機械設計、大きな仕事をする場合は日本においては大手に入って仕事をする方がチャンスの機会が多いと思う。
私も最終的に転職はしていないが自分の将来を模索していた時期に転職活動をしていくつか内定を頂いたことがある。
折角なのでその経験(機械設計者の転職活動)を共有できるように記事に起こしたので参考にして頂ければ幸いだ。
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