前回は図面の基本的な見方を説明したので、今回は図面を見ていく上で必ず必要になる寸法公差について説明をして行く。
公差の仕組みがわかれば図面に書いてある寸法公差の意味が単なる形状のばらつきではなく機能、性能はもちろんのこと生産まで含めた非常に大きな意味を持つことが理解できるようになると思う。
初心者からわかるように基本的に四則演算と乗数だけでわかるように努力する。
図面の寸法公差
では具体的に寸法公差の記入例を見て行こう。
今回は寸法A(mm)とし公差の取り得る全てのパターンを表すと次のようになる。
・-a~+a(mm)
・+b~+a(mm)
・0〜+a(mm)
・-a~0(mm)
・-b~-a(mm)
通常、存在する全パターンを網羅しているはずである。
ちなみにこれからは単位mmは省略させてもらう。図面は基本的に単位はmmなのだ。
また覚えて欲しいのが寸法Aのことを称呼値(しょうこちと読む)と言う。
頻繁に使うので是非、覚えて欲しい。
基本の型はA±aであるが設計上のテクニックで称呼値より絶対に大きくしたい、小さくしたいと意思表示をする場合は片振り寸法公差0〜a、-a~0と記載する。
また残りの2パターンははめあい公差を使うときに使う。はめあい公差については専用項目で別に説明する。
これらの意味することは形状の観点から見れば単純に寸法に対し許容できる形状の範囲を表していることは多くの方がわかると思う。例えば5±0.5であれば4.5~5.5の範囲の寸法になる。
ここまで普通の説明をしてきたが生産側から図面を観ると基本の型A±a以外の型は全く意味はなく全てA±aの型に変換されてしまう。
一方で造る側から観ると、この寸法の意味は加工の狙い値±許容されている誤差となる。
実際に量産するとなるとさまざまな要因があって狙い値が必ず称呼値になるかというとそうではないが基本的には狙い値±許容誤差としているはずである。
よって設計者も片振り公差など使うときは一度、計算して中央値±公差の形にして加工の狙い値を確認しておこう。
量産工程(製造現場)から見る公差の意味
量産(少なくても25個以上くらい造るもの)する場合は寸法公差がどう見えているかというと“加工した部品の寸法の平均値±工程での寸法のばらつき“と見ている。
ばらつきという新しい言葉が出てきたがそんなに難しくなくてばらつきの意味は狙った値からどれだけ外れたかということである。
平均の意味はそのまま学校で習った平均値のことである。
例えば5という加工の狙い値として実際に造ってみたら4.6 , 4.8 , 5.0 , 5.2 , 5.4の4個ができたとする。
そうすると平均値は$ \frac{4.6+4.8+5.0+5.2+5.4}{4} $で5.0になる。平均値と最も離れている寸法は4.6と5.4なので平均値5.0から0.4離れていることがわかる。つまり4個の部品のばらつきは最大は0.4になる。
この4個の部品の寸法の値を5.0±0.4以内と表すと図面に書かれている公差のカタチと同じになる。よって工程の寸法のばらつき=寸法公差と見なせるのだ(称呼値±寸法公差=工程の寸法の平均±ばらつき)。
例のような4個とかの少数の場合は簡単だが実際の量産となると少ないもので100個くらい、多いと100万個とか生産する場合もあるのでいちいち全部を計測して中央値、ばらつきを調べていたらキリがない。
ここで統計的手法を使って量産での寸法を管理する。
では例として次の表のような生産がされたとしよう。
上のデータをもとに横軸を寸法、縦軸を生産された数として棒グラフを作る。
さらに棒グラフから折れ線グラフにすると
ではこの生産数をどんどん増やしていくと(例えば極端に♾個とかにする)次のようになる。
この曲線は実は統計学の正規分布という曲線になる(最近はガウス分布と呼ぶこともあるらしい)。
ただし正規分布になる条件としてはしっかりと管理された工程(機械のメンテナンスなど)の場合に限る。
逆に自分が関わっている製品を量産したときに生産正規分布を取らない場合は工程がおかしいことが多い。従って生産品に不良が多く出た場合は生産した部品の寸法を測って横軸が寸法、縦軸が生産数のグラフを作成して分布を確かめることをお勧めする。
もしグラフが正規分布に従っている場合は無理な寸法の振り方をしている場合なので図面を見直すか必要に応じて高価な工程に変更する必要がある。
この正規分布はすこぶる便利なもので生産した部品の平均値とばらつきの度合いが分かれば不良な寸法が工程で何%の確率で発生するのかがわかってしまう。
正規分布について
管理された量産工程で生産される部品の寸法が正規分布の形になることを理解した上で、実際に“どんな数字がわかれば正規分布を書けるのか“を説明する。
まず一つ目の数字は生産された部品の寸法の平均値μ(ミューと呼ぶ)が必要。
μの求め方はn個の場合は$ μ=\frac{a+b+c}{n} $(a,b,c・・はn個まで続く)
次に必要な数字はばらつき度合いを示す尺度である分散$ s^2 $(エスの2乗)が必要。
分散と聞いて難しいと思わないで欲しい、以下の計算を分散というだけである。
n個の部品の寸法の分散$ s^2=\frac{(a-μ)^2+(b-μ)^2+(c-μ)^2}{n} $(上辺のa,b,cはn個まで続く)
ちょっとかっこよくまとめると$ s^2=\frac{Σ(x-μ)^2}{n} $と表される。
Σ(ラージシグマ)はただ単にカッコの中の式をn回足してくれという意味なだけである。
ここで出てくる疑問は“なんで分散は2乗した値を取り扱うのか“だと思う。
ばらつきを表すのに2乗することは非常に重要なことなので詳しく説明する。
2乗しないでばらつきを考えると例えば平均が5に対し値が5.1だとばらつきは+0.1、4.9の場合だとばらつきは-0.1になるのでばらつきを足し合わせる0になってしまう(本体はばらつきは存在する)。
一方でばらつきを2乗しておけば5.1のばらつきは$+0.1^2$、4.9のばらつきは$-0.1^2$で足し合わせると$0.01+0.01=0.02$で平方根を取ると$ \sqrt{0.02^2}=0.014 $となりちゃんと加算され正確なばらつきが表現できる。
もう一つ重要な値が標準偏差σ(シグマ)である。
これも難しく考えないで以下の式が標準偏差というものなんだと覚えて欲しい。
標準偏差$ σ=\sqrt{s^2} $
これだけである。
平均μと分散$ s^2 $と標準偏差σがわかれば次のような正規分布が決まる(EXCELなどで書ける、昔ながらのアナログなやり方だと正規分布表を見て書く)。
見て解るように標準偏差の値が大きくなるほど生産数は減っていく。
このような正規分布を$ N(μ,σ^2) $と表す。
この正規分布の優れているところ正規分布に従うのであればμ -σ~μ+σの間の寸法を取る確率は68.2%であると決まってしまうのだ。
さらに2σ以内では95.4%、3σ以内では99.7%(1000個に3つで覚える)の確率で存在すると決まるのだ。
これこそ人類が創造した英知と言ってもいいと思う。
実際に考えてみると正規分布に従う工程であればどんだけ多くの数(極端に♾️でも良い)を生産しても平均と分散がわかればどのくらいの割合(確率)でどんな寸法が出来上がるのかがわかってしまうということだ。
例えばある工程で平均が5で分散が0.1だとしよう。
標準偏差は分散の平方根なので電卓を叩いて約0.316だ。
そうすると例えばμ±3σを計算すると4.05〜5.95になり、この工程で4.05~5.95の範囲の寸法で生産される確率は99.7%である。
言い方を変えれば“1000個に3個以外はこの寸法を保障します“ということなので1000個の生産で997個、1万個だと9970個が4.05~5.95の範囲で必ず生産される。これは何億個作っても変わらない割合なのだ。
つまり正規分
ここまでのことから読者の多くの方はお気付きだと思うが正規分布に従う寸法は決まった確率で平均μー標準偏差σ〜平均μ+標準偏差σの範囲に収まる、書き換えると平均μ±標準偏差σと書ける。
そう、ここで記事の中の布石が繋がってくるのだ。
つまり寸法公差は工程の寸法のばらつき、
ここまでで“平均と分散がわかれば生産される寸法が解る“ということが理解されたところで実際にいくつくらいの生産数でど平均、分散を求めればいいのか?という疑問が湧くと思う。
平均、分散を求める具体的な生産数は各企業、団体や考え方で異なってくるのだが筆者は30個程度の平均、分散を取れば正規分布に従うと考えている(最低で25個)。
理由は何個の部品の生産数で無限に正規分布に従うのかを考えるのと信頼度区間とか中心極限定理の理論からおおよその生産数が見えてくる(別記事で詳しく解説する)。
それを観ていくと数を30を跨ぐところで、急激に正規分布に従い始めて30以降はなだらかになっていく。
この性質を使って基本は30としている。
要するに“30以上の部品で平均、分散を取れば正規分布に近づくけど25以上30未満と対して変わりませんよ“ということだ。
ここら辺の正確性はコストと精度とのトレードオフになる。
平均と分散を求める際に取り扱う部品の数が少なければ安く済むけどバラツキは大きい、部品の数を多くすればコストは上がるけどバラツキは減る。バランスが大切なのだ。
まとめ
ここまでをまとめる。
・寸法公差は単に形状の範囲を表すわけではない、製造の実力と密接な関係がある
・図面寸法の称呼値±寸法公差は製造の生産した寸法の平均±ばらつきと同じである。
・管理された生産工程で生産される寸法は正規分布に従う
・正規分布は生産された寸法の平均値μとばらつきを表す分散sで決まる。
・平均μと分散sは30個の生産で算出すれば
申し訳ないがちょっと長くなってきたので次回に続くにさせてもらう。
[st-card myclass=”” id=”706″ label=”” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”off” thumbnail=”on” type=””]
もうちょいお付き合い願いたい。
今回の記事で紹介した内容に関連する品質(QC)の考え方、統計学に関連する本が安く読める。
しかも流石、本屋が原点であるAmazonだけあって機械工学の専門書がそこそこ揃っていてかなり使えるサービスだ。
特に機械工学の専門書は高額になることが多いので少しだけ読みたい分野の本を眺めるのに非常に役に立つので是非、オススメしたい。
[st-flexbox url=”https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/hz/signup?tag=kazubara-22″ fontawesome=”fa-info-circle” title=”Amazon kindle Unlimited 無料体験” height=”” color=”#2b2b2b” fontsize=”150″ radius=”0″ shadow=”#A1A3A6″ bordercolor=”#ccc” borderwidth=”1″ bgcolor=”” backgroud_image=”https://kazubara.net/wp-content/uploads/2024/04/amazon-kindle.jpeg” blur=”on” left=”” margin_bottom=”10″]
折角なのでさらに機械設計で必須の本があるので紹介しよう。
はっきり言って中身は不親切極まりないのだがちょっと忘れた時に辞書みたいに使える。このブログを見てくれれば内容が理解できるようになって使いこなせるはずだ。
またよく使う規格が載っているので重宝する。JISで定められて機械材料の特性が載っている。
多くの人が持っていると思うが持っていない人はちょっとお高いが是非、手に入れて欲しい。但し新品は高いので中古で購入を考えている方は表面荒さの項目が新JIS対応になっているのを確認することを強くオススメする。
また本ブログをキッカケとしてエンジニアとしてステップアップして大きな仕事を掴む手段の一つとして転職するのも一つの手だ。
やはり予算の大きい機械設計、規模が大きい機械設計、大きな仕事をする場合は日本においては大手に入って仕事をする方がチャンスの機会が多いと思う。
私も最終的に転職はしていないが自分の将来を模索していた時期に転職活動をしていくつか内定を頂いたことがある。
折角なのでその経験(機械設計者の転職活動)を共有できるように記事に起こしたので参考にして頂ければ幸いだ。
[st-card myclass=”” id=”59596″ label=”” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on” thumbnail=”on” type=””]
コメント