素人ながらも頑張って前回はSBDそのものの仕組みと特性を紹介しました。
今回はSBDの特性を“どのように活かして電動ガンの回路に組み込むのか“を考えていきたい思います。
まずはSBDが付いていない通常の電動ガンの回路から考えていきます。
SBDが付いていない通常の電動ガンの回路
まずは通常の電動ガンの回路を考えてみましょう。
かなり単純で電源であるバッテリーと機械式スイッチとDCモーターが付いているだけです。
トリガーとスイッチが機構で繋がっていてスイッチがオンオフされるだけです。(DCモーターは直流モーターのことです。)
次にトリガーを引いたとき、つまりスイッチが繋がったときを考えます。
スイッチオン
トリガーを引くとスイッチが繋がりDCモーターに電気が流れます。
そうするとDCモーターが廻ってギヤやピストンを動かして空気を吐き出して弾を飛ばします。つまりメカボックスが動きます。
次にトリガーを戻したとき、スイッチがオフになった場合を考えます。
スイッチオフ
トリガーを戻してスイッチオフになるとバッテリーからの電気は遮断されます。
ここで図では最初と一緒なのですが決定的に異なることがあってモーターが慣性で廻り続けることです。車は急には止まれないのと一緒です。
では慣性でDCモーターが廻っていると何が起きるのかを考えてみます。
DCモーターが慣性で廻っている(スイッチオフ)
ここでDCモーターが慣性で廻っていると何が起きるのかというとDCモーターは発電機となって電力を発生させてしまうのです。
DCモーターの仕組みは後に紹介しますが、電力が供給されるとフレミングの左手の法則でDCモーターは廻ります。
逆にDCモータがなんらかの力により廻る時はフレミングの右手の法則で電力を発生させます。
この左手と右手の違いは電力を発生させる方向が異なります。
発電する場合は電気が供給される向きと逆向きになるので図のように電気が流れようとします。
つまりDCモーターはエネルギー変換装置(向きも変わる)とも言えます。(電力→運動エネルギー、運動エネルギー→電力)
DCモーターから発生した電力を逆起電力Vm[V]と呼びます。電力という名前なのに単位はなぜかV(ボルト)の理由は筆者はわかりません。普通、電力といったらW(ワット)だと思うのですが。
DCモーターの逆起電力の行方
DCモーターが逆起電力Vmを発生させることがわかったので、次に発生した電力はどうなるのかを考えてみましょう。
先程の図で逆起電力が発生した後に行き先がスイッチ以外にないので、まずは逆起電力はスイッチに行きます。
スイッチは物理的に離れているので基本的に電気は遮断されています。でも発生した電力は何らかの形で消費されようとします。
運動エネルギーにしろ電力もエネルギーは、筆者にそっくりで易きに流れるのがこの世の物理法則です。
さらに筆者と同じで易きを発見する能力が半端じゃないくらい高いです。しかもできるだけ早く消費されようとします。
回路に戻ってこの中で電力が一番、簡単に流れるのは実は物理的に離れたスイッチ間の空間を飛び越えることなのです。
他の電力消費法に比べるとスイッチの電極同士の距離が短いので電力にとってはそこを通電するのは楽な方法の一つになるのです。
特にスイッチをOFFする瞬間、つまり端子が離れた直後はスイッチ間の距離が短く比較的、電気が流れやすい状態になります。
もちろん逆起電力が全て通電するのではなく配線やモーターの熱に変化されますが、比較するとあまりにも大きいエネルギーなのでそれだけでは消費は間に合わないので余った電力がスイッチ間を通電します。
その時にスイッチ間は回路上どう考えるのかというと超大きな抵抗値を持った抵抗と考えます。
抵抗値Rが超大きいため流れる電流が多少、小さくても発生電圧は極大になります。
そうすると皆さんご存知の雷とほとんど同じ現象が起きます。これを火花放電と呼ぶらしいです。
その時に大半は熱に変換され消費します(火花になる)。その熱(火花)が大気中の埃やチリを焦がしてスイッチにこびり付いたり、スイッチ自体が金属なので熱によって大気中の酸素との反応が促進され錆びます。
このダブルパンチで電極が劣化しいずれスイッチの役割を果たせなくなります。さらに進行するとスイッチの電極(金具)が溶けます。
また熱に変換されなかった極一部の電力はバッテリーに強引に流れます。なぜなら火花放電によって電力は超高電圧になっているのでバッテリーの電圧8〜12Vくらいは0Vレベルに等しく簡単に流れていきます(奴らにとっては、誤差レベルの電圧)。
それがバッテリーにダメージを与えリポでもニッスイでも寿命が縮んだり破損します。
ここで皆様も疑問に思われるのがあんな小さなDCモーターが大きな電力を発生するのか?だと思います。そこで間違えてるかもしれないけど簡単に計算してみます。
DCモーターの逆起電力によるスイッチ間の電圧
DCモーターの仕組みなどは別で細かく説明するのでここでは飛ばしながらやってしまいます。
まず例題の設定でリコイルなしの普通の電動ガンで0.2gで初速90m/sくらいで秒間15発程度(メカボのギヤ比は18とする)でバッテリーはリポの7.4V駆動のモーターを考えてみます。(国内最大手メーカーの標準の棒モーターを想定)
某国のリバースエンジニアリングをやってるみたいで少し気が引けますが続けます。
まずはスイッチオフ時にモーターが持っている運動エネルギーWを考えます。
これは角運動エネルギーで表せます。
IはDCモーターのローターの慣性モーメント、ωはモーターの各速度とすると
$ W =\frac{1}{2}Iω^2 $
なのでモーターのローター直径を大体で20mm、高さを40mmとし材質は鉄で比重が7.85より重量が30[g]くらいになります。
またレシオ18.72で秒間15発からモーターの回転数は秒間280.1回転なのでωは561.6π(rad/s)になります。
ここから単位をMKS系に直して計算すると
$ W=11681[J] $
になります。これは各速度が毎秒なので毎秒の仕事率Wにできますが仮に秒間15発のセミオートが可能だとすると1発のトータル時間は0.067秒なのでモーターの持っている運動エネルギーWsは
$ Ws=11681×0.067=782[J] $
だいたい800[J]としましょう。
この仕事が電力W[ワット]で式はV(電圧)×I(電流)で求められます。
ここでスイッチ間の火花放電の大きな抵抗を調べてみると少なめにみて0.1MΩなので電圧と電流、抵抗の関係式から
$ V=RI=0.1×10^5I $
になりDCモーターは800[W]のエネルギーを持っているので
$ 800=V×\frac{V}{0.1×10^5}、 V=2830[V] $
2,830Vになります。
これは絶対値の意味はありませんが桁は合っていると思います。これでも少なく見積もっているので十分に高電圧になりますね。
ただし一瞬で消費され熱になります。
バッテリー電圧の12~13Vくらいは誤差レベルであることがわかると思います。
ここからは、SBDが付いた回路を考えます。
SBD付きの回路を考える
まずSBDの回路記号をおさらいします。
これを使って回路を考えてみましょう。
回路で問題となるのはDCモーターの逆起電力によるスイッチ間の火花放電による劣化なので逆起電力をモーターにお返しする回路をつくります。
そうするとこんな感じの回路になります。
SBDの向きは注意してください。
実際の取り付けでも注意してください。間違えても大きな支障(SBDが壊れるだけ)はありませんが全く意味がなくなります。
次に問題のや起電力が発生した場合のSBDの働きを考えてみます。
DCモーターの逆起電力の行方 SBD付き
エネルギーは易きに流れると説明しました。
前回の説明を参照にして欲しいのですがSBDは電圧降下VFより高い電圧が加わると電気が流れます(VFはだいたい1V未満)。
一方で火花放電を起こすようなスイッチの抵抗は超大きいので発生した逆起電力はスイッチの方ではなくSBDの方に行きます(オフのスイッチよりSBDのが電気が圧倒的に流れやすい)。SBDの方向に電気が流れるとモーターに電気が戻ります。
これがモーターへの還流と呼ばれスイッチに基本的に電気が流れないのでスイッチが火花放電をすることがなくなります。
ただしSBDの電圧降下VFより逆起電力が低い状態の時にちょこっと電気が流れます。このちょっとの電流が火花放電を起こすこともありますがSBD無しに比べエネルギー量が圧倒的に低いので火花の量も超減少します。これでスイッチが長持ちします。
一方でDCモーターが自己発電した電力はSBDによってモーターに戻るのでDCモータ自身が電力を食い合って回転が止まります。
これがSBDによるスイッチ保護の基本的な考え方になります。
では次にスイッチオンの時はSBDは何をしているのでしょうか?考えてみましょう。
スイッチオン時のSBDの働き
では“電動ガンが作動している時、スイッチがオンの時にSBDは何をしているのか?“というとSBDの良くない特性の一つの漏れ電流IRが流れます。
しかもこれの大半は熱に変換されます。
つまりこの漏れ電流IRとDCモーターに掛かる電圧V(並列回路なので電圧が一緒)を掛け算した電力が熱に変換されます。
簡単に計算すると7.4Vのリポバッテリーの満充電が8.4Vでそれが全てがDCモーターに掛かったとするとSBDにも同じ電圧(並列)がかかりますので100%の熱変換で計算すると熱量$ Q=8.4×IR[J] $となります。(リポの放電能力やSBDの熱変換率にもよる)
漏れ電流IRはSBDに掛かる電圧にもよりますがだいたい0.01[A]の桁のようです。そうすると毎秒8.4Vの電圧が掛かったとすると発熱量Qは0.084[J/s]になります。ちなみにcal=4.18Jくらいで1calは1gの水を1℃上昇させる熱量です。
これだけみると大したことはないのですがDCモーターの発熱、SBD自体の発熱、さらには熱による漏れ電流IR(SBDの特性)の増加でますます温度が上がるという悪循環にハマってしまうとSBDは熱によって壊れます。
この辺りの特性は前回の説明を参考にしてください(熱で漏れ電流が増加するなど)。
つまり過度な連続した電気が流れる状態、電動ガンで言えばフルオートでの長時間発射は注意したほうが良いです。
またDCモーターの負荷が何らかの要因(ピスクラとか弾詰まりなど)で一時的に高まった時にリポバッテリーは自分の最大放電能力を発揮します。
例えば7.4Vの30Cで2000mAhのリポバッテリー(ミニサイズ相当)は30[A/h]×2000[mAh]で60[A]流せます。
ここでDCモーターの内部抵抗は、電動ガンクラスだとだいたい2〜3Ωくらいなので60Aが流れると120〜180Vの電圧がSBDに掛かる可能性があります(某国内大手メーカーの代表的なモーターの推測値)。
従って120〜180Vの電圧に耐えられるようなSBDを選択していないとSBDが壊れます(SBDの耐逆電圧特性)。実際にSBDの耐電圧特性を調べて見ると優れているSBDだと耐逆電圧200V未満が存在するようです。
しかしながら無駄に高い耐逆電力特性を持つSBDを選択してしまうとSBDの特性で漏れ電流IRや電圧降下VFが上昇し熱が発生するので注意が必要です。
またSBDの特性で耐逆電力が高いと回路のスイッチオフ時の電流の環流反応速度は犠牲になります。環流反応速度が遅いとSBDに電流が流れる前にスイッチに行ってしまい火花放電が発生し何のためのSBDなのか、わからなくなるので気をつける必要があります。
この耐逆電力と漏れ電流、環流反応速度などの性能はトレードオフのようです。
これらよりSBDは還流用なので逆起電力が働いた場合だけを考えるてSBDを選択すると壊れることがあります。従って電動ガンの発射状態の状況(回路スイッチオン)もよく考えて選ばないと意味がなさそうです。
逆起電力によるSBDの熱の発生
スイッチオン時にSBDが発熱するのと同様にスイッチオフ時の逆起電力によってもSBDは熱を発生します。
特に超高性能モーターだと高性能なためより多くの運動エネルギーを発生するので逆起電力も大きくなりSBDを通過する電流が増えます。
SBDの順方向とは言え電圧降下VFだけ損失する、損失は熱に変換される。つまり発熱するので大電流が流れると大きな熱でダメになる可能性が高いです。
普通のモーターでも過度なセミオートの連射でも逆起電力によって熱を発生し続けるのでかなり辛いと思います。
要するにスイッチオン、スイッチオフのどちらのパターンでもSBDは熱を発生し壊れることがあるので注意が必要です。電動ガンで言えば過度なセミオートの連発や長時間のフルオートは気をつけた方が良いかもしれません。
まとめ
SBDは取り付けることは簡単ですがSBDの適切な選択はかなり深いテーマになります。
・お持ちの電動ガンのモーターの性能に合わせてSBDを選ぶ
・自分の使用スタイルによってSBDを選ぶ
・SBDを選ぶときにはモーターへの還流だけでなく通常使用時のSBDの動きにも注意する。
SBDの取り付け記事はこちら
電動ガンを使用していてグリップ(モーター)が熱く感じるようでしたらSBDが既に壊れているかもしれません。
その時は対策として大容量のMOSFETの取り付け、モーターの負荷を下げる(スプリングを弱いのにする)、効率が良いモーターに変えるなどの対策が必要かもしれません。
MOSFETについてはこちらで考えたので興味がある方はどうぞ→MOSFETを考える
いずれにせよ温度はすぐわかるので熱くなったら使用を止めるなど注意するとSBDが生還するかもしれません。
さらにセミ、フルオートでの過度な連続使用はSBDだけでなくメカが全体的に痛むので注意したほうがyぽいかもしれません。
幸いSBDは破損してもFETのように電動ガンがスイッチオンのままになることが無いのが幸いです。それ故に生きているのかの判別が難しいのが難点です。
以上、お付き合いありがとうございました。
次回はSBDを選んでみるかDCモーターを考えるのどちらかにしてみます。
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