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コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓8 コメットの営業飛行開始とトラブル(後退翼、揚力、技術者倫理)

さて前回まででコメットの高高度飛行に必要不可欠技術であるジェットエンジン与圧室について説明してきた。

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓3 ジェットエンジンの誕生(遠心式圧縮機、軸流式圧縮機)
コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓7 与圧室の設計の課題(疲労強度、弾性域、公差の積み重ね、技術の伝承)

本題のコメットは国家プロジェクトとして1946年9月に開発開始して1949年7月に初飛行し1951年の1月に量産機納入という恐ろしいスピードで完成した。

21世紀にエンジニアになった筆者では、考えられないスピードだ。半端じゃない。

例えるなら民間での使用実績がほとんど存在しない動力源を採用した新しい輸送機器がたった5年間で量産され、お金さえ払えば誰でも利用できるのだ。

身近なところだとリニアモーターカーなんか基礎研究着手が1962年で営業走行開始予定(あくまで予定)が2027年なのでおよそ65年ほど研究から量産まで時間が掛かっている。

鉄道と飛行機の違いや時代背景の違いから一概に単純比較は、できないがリニアが遅いのではなくコメットが早すぎるのだ。

これまでに説明してきただけでも大きな難題があるにも関わらず、たった5年未満で一応の解決をしたことになって量産された。

世界初ジェット旅客機コメットは大英帝国の威信を背負って、ついに1952年5月に営業飛行が始まる。

コメットの営業飛行と評判

コメットが営業飛行を始めた時点では、おそらく賞賛の嵐だったと思われる。

しかしながら世界初なだけあって運用するのに様々な難しさも確実に存在した。

まずコメットの革新的な素晴らしさを少し考えてみる。

コメットの素晴らしさ

まず完全な与圧室なのでそれまでのプロペラーレシプローエンジンの客室の快適さが桁違いに向上している。

おそらく快適さは現在の旅客機をとほぼ同じレベルだと思われる。

次にジェットエンジンはプロペラーレシプローエンジン機に比べ圧倒的に静かになる。

プロペラの風を切り裂く音とエンジンの音はかなりうるさい。

プロペラは先端の回転速度(回転数じゃないよ)が速いので高周波音を発生しエンジンは、ほぼ一定回転(効率が良い回転数を保つ)で低中周波音を発生している

現代でもガソリンエンジンじゃないけどヘリコプターが近くを飛ぶとかなりローターの風切り音がうるさいはずだ。

しかも当時のレシプローエンジン旅客機は、エンジン音も加わるのだ。

一方でジェットエンジンも決して静かではないのだが基本的に高速で複数のタービン(インペラー、風車)が廻っているだけなので高周波音だけになる。

おそらくコメットの騒音レベルは、現在のジェット旅客機とさほど変わらないと思う。

さらに以前のプロペラーレシプロ旅客機とは、桁違いのスピードで飛ぶ最強の旅客機だった。

当時のレシプロエンジンの最新鋭旅客機のDC-6のおよそ1.5倍のスピードで飛んでしまう。

流石、最新鋭である。

一方でこんなに高性能では、納入コストや運用コストが高くなり一部のリッチな人にしか縁がなさそうに思えるがジェットエンジンの今まで説明してこなかった大きな利点である低質な燃料でも使えてしまうので長距離になればなるほど運用コストが下がりそこそこのコストで運用できたようだ。

ガソリンーレシプローエンジンでは効率の良い燃焼のために空気と燃料の混合気を圧縮して燃焼するのだ。

そのため揮発しやすくて(空気と混ざりやすい)自己着火しにくい(圧縮中に勝手に燃えない)という相反する性能を持つガソリン(オクタン価で表す)が必須になるがジェットエンジンはとにかく燃焼してくれれば良いのでかなり雑食なエンジンなのである(極端な話、燃えればなんでも良い)。

基本的にジェット燃料は、ガソリンより遥かに安い軽油、灯油(正確にはケロシン系でかなり安い)なのだ。

しかも質が悪くても全然、大丈夫なのだ。

勿論、各航空会社から大人気で50機以上のバックオーダー(予約)が入っていた。中には、日本の今で言うJALも注文していた。

大英帝国と開発、製造会社は、鼻高々である。

一方で世界初なだけあってジェット機ならではの運用の難しさがあった。

コメットの運用の難しさ

このような特性で滑り出しは、上々だったのだが世界初なだけあって次のような営業飛行の難しさがあった。

大きな特徴だけを挙げていくと

コメット運用の難しさ

1、生まれたての頃のジェットエンジンなのでそこまでパワーがなく機体も完全与圧式でかなり重かったので出力と重量の比が小さかった。(パワーウェイトレシオが低い)

2、ジェットエンジンの欠点である応答性が悪い(レスポンスが悪い)くて当時のパイロットでは扱いが難しかった。

3、これまで説明していないが翼に後退翼を採用したため低速時の浮力が不足しがちで機体コントロールが難しかった(失速特性が悪い)。

が主な特徴になる。

まず1点目のジェットエンジンの出力不足にはイギリスならではの事情もあった。

以前のジェットエンジンの誕生編で触れたように当時は、イギリスのジェットエンジンの主流は遠心式でドイツが軸流式だったことを思い出して欲しい。

大戦が終了した後で各国でジェットエンジンの有用性は解りきっていたことだったのでドイツのジェットエンジンに携わったドイツ人エンジニアの争奪戦が発生したのである。

イギリスは、残念ながら自国領土付近の戦争だったためダメージが大きくてアメリカ、ソ連にエンジニア争奪戦で負けてしまったのである(ソ連は強引に連れ去った説もある)。

イギリスも軸流式の将来性は、わかっていたもののコメットを世界初のジェット旅客機にするべく持ち合わせの遠心式のジェットエンジンを採用せざろう得ない辛い状況だった。

ロールスロイス社で軸流式のジェットエンジンの開発に着手をしていたもののコメットの予定には間に合わなかったようだ。

そこでジェットエンジンは開発、製造会社であるデ・ハビラント社のゴースト エンジンという遠心式のジェットエンジンを採用した(戦闘機用ジェットエンジンの発展型)。

戦闘機用としては十分だったかもしれないが旅客機となると四発積んでも少し厳しかったようだ。

また遠心式であることから正面面積が大きくなってしまうので少しでも飛行機の正面面積を減らす目的もあって製造、メンテナンスがめんどくさい翼内にエンジンを埋め込んだ。

結果的にコメットの特徴的な形に繋がった。

次に2点目を飛ばして3点目の特徴である後退翼について少し紹介する。

後退翼とは、単純に主翼のついている角度が胴体の中心線に対し90°未満の角度になっているものを後退翼と呼ぶ。

この後退翼は、既存の翼と決定的に異なる特徴としては高速域での空気抵抗が低いのだ。

特に亜音速領域では顕著に効いてくる。

これが飛行機の速度や燃費にかなり効いてくるのだ。

その代わりに既存の翼に対して揚力は低くなり、特に低速領域での揚力はかなり減少する。

この後退翼をコメットでは採用したのだ。

この後退翼採用による低速領域での揚力不足とエンジン出力の低さに加え2点目に特徴であるジェットエンジンの応答性の悪さが発着陸がとても難しい機体になってしまった。

さらに世界初のジェットエンジン採用の旅客機なので当然、ジェットエンジンの経験豊富な民間パイロットなんてほとんど存在しない(たぶんいない)のでかなり苦戦したと思われる。

これらの難しさは具体的な特性としては、

離陸するためには、エンジンパワーが機体に対して小さく、後退翼のため低速の浮力が少なめなので長い滑走路が必要になる。

さらに離陸直後も上昇するために飛行機の角度を地面に対して大きくすると後退翼のため大きな角度を取ると浮力がいきなり低下してストンと機体が下降するのだ(機首上げ性能が悪い)。

飛行機の翼の揚力発生のメカニズムは、誤解を恐れずに簡単に説明すると翼の上面の空気の速度VUが翼の下面の空気の速度VLに対して速くて翼上面の空気がどんどん流れる、翼下面の空気は少ししか流れないことによって空気の密度差を発生させる。

空気の密度は一定になろうとする性質があるので翼下面から翼上面に力、つまり揚力が発生するのだ。

本当は圧力差によるモノだが密度のがわかりやすいかもと思って密度にしてみた。

また翼と地面の角度を迎え角と呼び、この迎角が大きくなると翼の上下面での速度差が減り揚力も減ってしまうのだ。

着陸は、もっと難しくてそもそも滑走路にアプローチするときに低速での浮力が少ないため機体のスピードが十分に落とせないので機体のコントロールが難しい。

筆者の調査では、どこにも書いていないのだが地味に重要なブレーキの設計がかなり大変だっと思う。

ブレーキは基本的には運動エネルギーを熱エネルギーに変換されることによって物体が止まる仕組みである。

その発生した熱エネルギーは大気に捨てるのである。

運動エネルギーは、基本的に物体の重さに比例しスピード(速度)の2乗に比例する。

だから1000kgの重さの物体(軽量なコンパクトカーくらい)が50km/h、100km/hのときに持っている運動エネルギーは50km/hで0.1Jで100km/hで0.39Jで速度は2倍でもエネルギーは約4倍になってしまう。

つまり単純に考えるとこの物体がブレーキをかけた時に止まる距離は50km/hに比較して100km/hの時は距離が4倍くらい必要になる。

このようにコメットも重くて着陸スピードが高いため高性能なブレーキが付いていても止まるのにかなりの距離が必要になる。

筆者の概算で申し訳ないがコメットの滑走路へのアプローチスピードは現代のジェット機とほぼ同じで約250km/hに対し当時の最新鋭のレシプロ旅客機のDC−6(乗員はコメットのほぼ2倍)が170km/hくらいなので相当に辛かったと考えられる。

まあ空気を利用したブレーキも(翼を使ったブレーキ)あるだろうがおまけ程度でメインは、普通のブレーキ(今の自動車と基本的に同じディスクブレーキ)だ。

ちなみに現在の飛行機も新幹線もでかいディスクブレーキだ。

滑走路を長くすれば大丈夫だが既に空港は、それなりに存在していて流石にコメットだけのために全ての滑走路の改修まではできない(インフラ整備に金がかかりすぎる)ので従来のプロペラーレシプローエンジン用の滑走路で離発着をできるようにしなければならない。

これは、かなり厳しい条件だ。

詳細は後述するがやはりコメットは、何度か滑走路内で止まりきれずにはみ出ていたようだ。

さらに着陸をやり直そうとしても後退翼による機種上げ性能が悪いのとエンジンの応答性が悪いため再上昇が難しくリトライしにくい機体になってしまった。

まあ、このような難しさがあったものの厳格な運用マニュアルの規定と後退翼の多少の改良(前縁スラットの追加、高揚力装置の一種)をしてなんとか営業していた。

コメット墜落事故

コメットは世界初ならではの素晴らしさと同時に世界初ならではの難しさを持った飛行機ながらもなんとか営業飛行を続けていたが遂に皆さんがご存知の墜落事故が起きた。

だがその前に既に大事故につながる前触れは確実に存在していた。

コメット墜落事故の前触れ

コメット墜落事故の前に3件もの事故が既に発生していた。

1件目が1952年10月に夜間に悪天候のなかコメットが離陸しようとしていた。離陸してパイロットが機体の浮上感を感じて機首を上げたら後退翼の失速特性が悪いことが作用してストンと落ちて滑走路に機体が触れてしまった。パイロットが急いで離陸中止をしたため幸い2名の軽傷者で済んだ。

2件目が1953年3月にコメットが燃料満載で離陸しようとした際に何故かパイロットが急いで機首上げを行なったため一件目の事故と同じようにストンと機体が落ちて滑走路に着陸し滑走路の端までに止まりきれずに事故った(オーバーラン)。不幸なことに乗員5名と同乗していたコメット開発、製造会社のエンジニア6名が亡くなった。

3件目が1953年6月にコメットが着陸のアプローチに失敗して滑走路をはみ出してしまった(オーバーラン)。幸い怪我人なしだった。

いずれも基本的には世界初のジェット旅客機に対してパイロットが不慣れだったことが原因とされ機体側に大きな問題がないと判断した。

このように営業開始日の1952年の5月からたった一年の間に3件もの事故があったが基本的に運用側の責任とした。

ここまでの時系列をわかりやすいようにヘビ図を使ってまとめる。仕事でも結構、使っていた。時系列を視覚化するのに便利である。

これは、者の経験からくる考えだが“どんな事故でも100%パイロットや運用が悪い“ということはなくて多かれ少なかれ道具に潜在的な欠陥があることが多い(要するに使いにくいのでいずれ事故が起きる)。

さらに散発的に継続して問題が発生する場合は、製造での問題ではなくて仕様になんらかの問題(設計の問題)を抱えていることが多い。

ただ残念ながら筆者が所属していたような大企業では、決定的な証拠がない限り自分の責任であることを否定しほとんどは、使用者(お客さん)の問題で片付ける。

理由は、多くの大企業はプライドが高くて少しでも否定されることを極力避ける風土になってきて中の人が正直な目で事実を見られなくなるのだ(損得ですらなくなる)。

このような体質、風土の中で如何にエンジニアは、事実を見つめられるかが大切で技術者倫理に大きく関わってくる。

この積み重ねが皆さんがご存知のリコール隠しによる事故に繋がる。

残念ながらコメットの製造会社も似たような体質だったようだ。

むしろ現在の我々がコメット墜落事故から得られる真の教訓を活かせていないだけかもしれない。

次回は、本格的にコメットの悲劇である連続墜落事故を見ていこう。

コメット墜落事故から学ぶ技術史と教訓9 コメット墜落事故と原因探し(破壊力学、FTA、FMEA、特性要因図、仮説と実証)

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  • この記事を書いた人

kazubara

輸送機器メーカーでの元エンジン設計者。15年の職務経験から機械設計知識を伝道します。また職歴を活かしてエアソフトガンをエンジニアリング視点で考えてみる。

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