前回までは一つの部品、特に一つの寸法の公差について説明してきた。
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初心者でもわかる寸法公差って何だ?その2 (工程能力指数 Cp Cpk )
しかし残念ながら部品が一個だけの工業製品は無くもないが、多くの工業製品は複数の部品で構成されている。
それこそ10個くらいの部品から自動車エンジンだと1000〜1200個、完成車で10000個の部品から構成されている。
今回は複数の部品が組み合わせると公差はどうなるかを説明する。
一般的には累積公差、緊度計算や二乗平均公差と呼ばれている内容を説明していく。
部品の公差の累積(累積公差)
説明のため次のような4部品A,B,C,Dを設定する。
4部品の寸法と公差
・部品A 寸法A ± 公差 a
・部品B 寸法B ± 公差 b
・部品C 寸法C ± 公差 c
・部品D 寸法D ± 公差 d
で部品の並びは単純に次の図のようにする。
単純に考えればただの足し算、引き算でできる。
この組み合わせの?(?をXとする)の最大寸法は
$ X=A+a+B+b+C+c+D+d $
で求められる。
これだと解りにくいので書き直すと
$ X=称呼値(A+B+C+D)+公差(a+b+c+d) $
同様に逆にこの組み合わせの最小寸法は
$ X=A-a+B-b+C-c+D-d $
で同様に書き直すと
$ X=称呼値(A+B+C+D)-公差(a+b+c+d) $
となる。
別々に考えるとめんどくさいので式を一本化すると次のように表される。
$ X=称呼値(A+B+C+D)±公差(a+b+c+d) $
これが単純な累積公差(絶対緊度ともいう)になる。
当たり前である。
この方法で計算すれば様々な大きさや隙間などが求められる。
ただ、この方法で計算すると多くの部品で構成されている製品の場合に、公差がたくさん公差が積み重なってバカでかい製品になってしまう。
そのような製品では性能は低いし、市場での競争力もなくなる、果ては機械や製品が巨大になることでコストにも関わってくるのだ。
じゃあどうするの?という答えは統計学にある。
今から説明していく。
分散の加法性
いきなり分散の加法性という言葉が出てきて驚いたかもしれないが、簡単なことで単純に異なる部品でそれぞれの部品の寸法のバラツキが正規分布に従うならば分散はそのまま足せますよ(分散はs)
$ S(組み合わせた寸法の分散)=Sa(部品Aの分散) + Sb(部品Bの分散) + Sc(部品Cの分散) +Sd(部品Dの分散) $
ということだ。
ただし条件があってそれぞれの部品A,B,C,Dの寸法のばらつきが独立した正規分布に従うことである。
ここで”独立した”という新しい言葉が出てきたが、これも簡単で要はそれぞれの部品が同じタイミングかつ同じ工程で生産されたものではないということだ。
管理された別個の工程やロットで生産された部品であれば良いのだ。
また統計学上、なぜ加法性が成り立つかは本ブログでは説明を省かせてもらう(後に別項目で説明する)。
例を出すと同じタイミング(同ロット品)でワッシャを100個ほど造って、そこから4つ抜き出して重ね合わせた場合の厚さの寸法の分散の加法性は成り立たない。
ここまでで分散が足せることは解った。
じゃあ、どうやって使うのと思うかもしれない。
では、ここで前回のことを思い出して欲しい。
図面寸法の称呼値A ± 図面の 公差a =製作現場での寸法の平均μ ± 製作現場での標準偏差3σ
つまり公差aと製作現場での標準偏差3σは等しいのだ。
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初心者でもわかる寸法公差って何だ?その2 (工程能力指数 Cp Cpk )
厳密に述べると工程能力指数は基本的には1.00以上あるはずなので等しい訳ではないのだが、工程能力指数1.00以上の場合は製作現場の標準偏差に対して図面公差の許容幅が広い(安全率みたいなもの)ので等しいと考えても問題ないのだ。
要は図面の公差幅は工程能力の許容最低値1.00(通常1.00~1.33)で保証されていると安全サイドに振って考えるのだ。
工学では厳密解を求められるものではなく最悪事象を想定すれば良いことが多いので、工程能力指数1.00を最悪事象として考えて公差aと標準偏差3σは等しいと考えるのだ。
次に思い出して欲しいのが標準偏差の2乗は分散である。
よって次が成り立つ
$ 図面の公差a^2=製作現場での標準偏差 (3σ)^2 = 分散 S $
これで各部品の分散が解る。分散は足せるので次の式が成り立つ。
$ Xの分散Sx =部品Aの分散a^2+部品Bの分散b^2+部品Cの分散c^2+部品Dの分散d^2 $
で分散の平方根は標準偏差であり図面で言えば公差のことである。
従って
$ Xの公差 x=\sqrt{部品Aの公差a^2+部品Bの公差b^2+部品Cの公差c^2+部品Dの公差d^2} $
これをXの2乗平均公差という。
二乗平均公差の意味
二乗平均公差の計算方法はわかってもらったと思うので、ここからは二乗平均公差の持つ意味を説明する。
今までの説明でXの分散Sxが求められることから実は各部品の組み合わせた寸法Xは、分散Sxの正規分布に従うのだ。
これはすごいことなのでる。
これを分かりやすく言い換えると前回で工程能力指数1以上なら不良は1000個に3個以下と説明した。
そう、製作現場で各部品を組み合わせた寸法Xを計測しなくてもXの不良率は、1000個に3個以下になるのである。
つまり組み合わせた寸法Xの不良率、工程能力指数、片側工程能力指数が管理できるのだ。
だから組み合わせ寸法で二乗平均を使っても良いとなる。
二乗平均公差の例
ここで二乗平均公差の威力を知ってもらうために実際に累積公差(絶対緊度)と二乗平均公差を比較してみよう。
また最初の絵を使う。
簡略化のためにそれぞれの公差を全部+0.1とする。
そうすると
$ 単純な累積公差x=0.1(公差a)+0.1(公差b)+0.1(公差c)+0.1(公差d)=0.4 $
+0.4である。
では二乗平均公差だと
$ 二乗平均公差x=\sqrt{0.1^2(公差a^2)+0.1^2(公差b^2)+0.1^2(公差c^2)+0.1^2(公差d^2)}=0.2 $
半分になってしまった。
これは設計者にとって、とてつもなく大きな意味を持つ。
多くの工業製品は市場原理によりあらゆることの高密度化、集積化が進んで行く。よって公差が狭くなることは大歓迎なのだ。
これが二乗平均公差の威力である。
まとめ
多くの部品を組み合わせた場合の寸法公差は二乗平均公差を使えば組み合わせ公差が単純な公差に比較して小さくなり部品が増えれば増えるほど小さくなっていく。
ただし二乗平均公差が成り立つのは各部品が独立した正規分布に従うこと。
つまり、しっかりと工程が管理されていることが重要なのだ。
さらに筆者の経験からくるアドバイスをしよう。
実は二乗平均公差を使うときに構成部品が1、2個しかない場合は要注意だ。筆者だったら使わない。
少なくとも4,5個以上ないと二乗平均公差は使わない。
確かに数学上2個以上の部品があれば分散の加法性は成り立つのだが実際にはそうでもないこともある。
だから構成部品の数が増えれば増えるほど正規分布に近づく特性を利用して4,5個以上としている。
またどんなに多くの部品で構成されていても求めている公差によって製品の使用者や生産者等への命に関わる大切な部位の場合は、二乗平均公差は筆者は使わない。
フェールセーフの観点だ、これについては専用項目を後で創る。
だからと言って全て単純な累積公差で設計するとバカでかい製品しかできない。
この辺のコントロールが難しいのがエンジニアリングだ。経験で学んで行くしかない部分の一つである。
まあこの辺の匙加減は企業や団体、製品、さらには個人でも異なる。
設計は理屈だけではなく個人の考えや感性が製品に大きな影響を与えるのだ。
だから面白くもあり難しい。
次回は、今まで説明してきた公差の実践テクニックを紹介したいと思う。
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初心者でもできる公差計算 実践編 (緊度計算、累積公差、二乗平均公差)
ここで一つ、機械設計で必要な本があるので紹介しよう。
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