今回から機械設計講座の新シリーズの初心者でもわかる機械材料講座を始める。
これまでに機械設計の基本となる図面の見方、公差の考え方、材料力学と説明してきた。
今回から始める機械材料は、今まで説明してきた内容と同等かそれ以上に大切なことになるので是非、理解して欲しい。
なぜならこの世に存在する物体の全ては材料から構成されているため、その材料を理解しておかないとモノづくりを行うのはかなり難しい。
しかも設計者だけでなくモノづくりに携わる全ての人に関わる重要なことである。
さらに筆者の思いであるが執筆時点での2021年では、世間ではAIブームが起きており教育においても初期の段階からプログラムを取り入れる検討がなされたりAI万能論が蔓延っているように感じる。
しかしながらここでよく考えて欲しいのだがAIを含めたコンピュータープログラムなどの優秀なソフトがあってもハードである物体が存在しないとそのAIやプログラムは、人間の役に立つことは絶対にできない。
例えばAIやプログラムが保管される物体や処理する機械が必ず必要になるし、人間がそれを扱う場合は、インターフェースであるスピーカー、マイク、キーボード、タッチパネル、通信装置などが必要になり、それら全ては機械、もしくは電気機械である。
つまりAIやプログラムと人間の間に機械が介在しないで機能することは、絶対に不可能である。
その機械の一番の基本になるのが材料であり、とても重要で国家やすべての産業の根底にある学問なのである。
筆者の勘違いなら良いがAIやプログラムだけの上部だけの技術に注目していて産業の基本である材料を疎かにすると後でかなり痛い目に遭うのではないかと危惧している。
ここまでで機械材料の大切さが理解していただけたと思うので実際に解説を始めていく。
機械材料ってなんだ?
化学と機械材料の違い
まず多くの方が機械材料という言葉に対し“どうゆう意味?“と疑問に持つことは想像に難くない。
筆者も大学に入学したときに“機械材料って材料と何が違うんだ?“とか“材料って化学で扱うもので機械に関係ないのでは?“と思った。
実際に大学で講義を受けてもイマイチ、ピンと来なかったのだが自動車会社にエンジン設計として入社してすぐに重要さが理解できた。
その経験を基になるだけわかりやすく説明する。
一般的に義務教育+高校で習う材料に関することは、主に化学に分類されている。
習う内容も最小は、物体は原子で構成されており原子の集まりが分子となって我々と接しているから始まりmol数や様々な化学反応を習うと思う。
筆者の記憶では、高校までの化学では事象の説明(化学反応など)を受けたはずだが材料の使い方を教わった人はいないと思う。
では、多くの人が触れた化学に対して機械材料は、何が異なるかというと“材料をどうやって人間が利用できるのかを考える学問“なのである。
例えば材料の強度、延性、熱伝導性、重さなどの性質を知り“人間が具体的にどのように材料を利用できるのか“を考えていく。
さらに面白いのが材料に熱を加えたり、力を加えたり、異なる材料を組み合わせたりなどの反応を学ぶことによって、より人間が利用しやすい材料を創造していく学問でもある。
機械材料の概要の例え
これを少し筆者なりにわかりやすく例えると料理に非常に似ていると感じるのだ。
例えば料理の材料である牛とか豚、魚などの生肉や色んな生野菜などは、そのまま生でも食べられるが、多くの場合ではさほど美味くないばかりか場合によっては、人間に悪い影響を与えることもある(食中毒とか)。
それらの材料を人間は、熱を加える(焼く、炒める、煮るなど)ことによって材料を人間が美味いと思えるように加工(料理)する。
さらに多くの場合で複数の具材を混ぜたり調味料を加えたりして、より人間にとって美味いモノに加工(料理)している。
これが機械材料と全く同じで例えば代表的な材料である鉄、アルミなどは、そのままでは全く使い物にならない材料なのである。
鉄なんかは、生のままの使えない状態を表す素晴らしい日本語があって使えない鉄を“なまくら(鈍)”と呼び、上手に料理された使える鉄は、“はがね(鋼)”と呼ぶ。
その材料に対して料理と同じように加熱したり冷やしたり荷重を加えたり(熱処理、残留応力)して性質を変化させて人間が利用しやすい材料に加工するのだ。
ここでも面白い日本語があって“鉄は、熱いうちに叩け“であり、これは鉄の代表的な料理方法を示している。
さらに料理と同じように複数の材料(鉄とクロム、アルミとシリコンなど)を混ぜたり炭素ガス、窒素ガス(調味料みたいなもの)を浸透させることによってさらに人間に利用しやすい性質に加工する。
どうだろう?かなり似ていると筆者は思う。
機械材料の目的
つまり機械材料では、料理で言えば生の材料の性質を知り、料理の方法を学び(熱処理など)、料理の美味さ(人間が材料を利用するのに有用な性質)を知る学問である。
具体的に言うと本ブログの材料力学では、材料内に発生する力を考えてきたが、機械材料ではその力によって材料がどのような変形、反応をするのかを考えていくことになる。
つまり材料力学と必ずセットになるのだ。
当然ながら化学と似たような材料を扱うことがあるので一部であるが高校化学と被る部分も出てくるが高校化学が苦手だったり、あまり触れたことがない人にもなるだけわかるように解説していく(筆者は、高校化学が大の苦手)。
ここまでで機械材料の目的が理解されたと思うので機械材料における代表的な材料の分類と各材料の基本的な特性を少しだけ説明していく。
材料力学編はこちらをどうぞ
機械材料の分類 金属、非金属、鉄、非鉄
機械材料における分類を説明していくが中学、高校化学と考え方が少し異なるので“何が違うのか?“に着目して説明していく。
中学、高校の化学において材料、原子の分類は、基本的に元素の周期表に基づいて教えられるはずだ。
元素の周期表の並びは、基本的に陽子の数が増えていく順番、誤解を恐れずに言うと重さの順番や化学的性質が似ている順番に基づいて並んでいる(最初のH、水素が一番軽くて段々と重くなっていく)。
多くの人がスイヘーリーベーなんて覚えた経験があると思う。
機械材料においても周期表は、とても重要な意味を持つが異なった分類で考えていくのである。
まず最初に分類されるのが金属か非金属のどちらなのかを分類する。
人間が工学的に利用する観点で考えるときには、周期表よりもこの金属か非金属かで考える方が都合が良いのである。
さらに細かく見ていくと金属の中にも分類があり鉄と非鉄で分けられる。
鉄というのは古代から人間にとって非常に有用な材料であり機械材料では、鉄だけで一つの確立した分類として扱う。
また鉄系金属材料と呼ぶこともある。
鉄系金属材料
歴史が好きな人なんかは、知っているかもしれないが古代において鉄の利用は文明の有無を意味するくらい人間と鉄は、深い関係にある。
紀元前1200年前後の頃から鉄の精錬方法が少しづつ確立されて鉄器を使った農耕が以前の石器、青銅に比較し格段に効率が上がったので文明の高度化へ多大な影響を与えたり、世界初の鉄製の武器を持ったヒッタイト族なんかは、周辺国を一瞬で滅ぼし大帝国を築き上げたくらい鉄は人類にとって重要で長い付き合いのある材料なのである。
最近の19世紀でもドイツの鉄血宰相ビスマルクが“鉄は、国家なり“なんて言うぐらい大切な戦略物質なのである。
勿論、文明が発展した現在でも機械材料の基本は、鉄であり強度、コスト、延性、加工性などのトータル性能は、ダントツでNo.1である。
折角なのでいくつか代表的な鉄の材料を紹介する。
汎用性抜群の炭素が入った炭素鋼であるSC材。
入手性と低価格が売りの一般鋼材SS材。
ちょっと高級なモリブテン(Mo)やクロム(Cr)との合金であるクロモリ鋼SCMやクロム鋼SCr。
錆に強くするためにたっぷりとクロム(Cr)との合金であるステンレス鋼SUS(腐食しにくいの英語STAINLESSが語源)。
鋳造用の鉄材料であるねずみ鋳鉄FCや少し高級な球状黒鉛鋳鉄FCD。
など他にも工具鋼、ばね鋼、板金材など数多くの材料がある。
詳細は、機械材料の鉄編で説明するが、ここで覚えておいてほしいことは、鉄系材料の多くは比重が7.8~7.85である。
もちろん添加物の種類や量によって変化するが主成分が鉄なのでそこまでは、変わらない。
設計者にとって設計対象の重さを予測するのはとても重要なスキルなので基本的な材料の大まかな比重は、覚えておこう。
次に金属の非鉄の分類を説明していく。
非鉄金属材料
この非鉄は、かなり雑な分類で金属の非鉄ならすべてここに入る。
呼び方としては、非鉄系金属なんて呼ぶ。
筆者がよく扱った非鉄系金属を上げるとアルミ、チタン、銅、マグネシウム、タングステンがある。
筆者は仕事で扱ったことはないが、本ブログで紹介しているエアガンは、亜鉛合金を利用することがとても多い。
この辺が非鉄系金属と呼ばれ一括りにされることがとても多い。
非鉄系金属の人類と関わりは、鉄と比べるとかなり最近のことである。
非鉄系金属の発見自体は、歴史は古いのだが人間が本格的に道具に利用し始めたのは、西暦1800年くらいからである。
現代の我々に最も身近な非鉄系金属のアルミなんかは、電気を使わないと精錬できないので本格利用が開始されたのは、西暦1900年くらいからであり120年程度の歴史しかない。
他の非鉄系金属なんかの本格的な利用は、アルミよりも超最近のことである。
よって鉄と異なって強引に一括りにされている(鉄に比較して非鉄系金属のノウハウが圧倒的に少ない)。
ここで非鉄系金属材料の代表的な材料の比重を紹介する。
・アルミ合金の比重 2.8
・チタン合金の比重 4.4
・銅合金の比重 8.5
・マグネシウム合金 1.7
・タングステン合金 19.3
・亜鉛合金 6.6
となる。
これも鉄系材料と同様に添加物の種類や量によって変化するが、おおよそでは各材料で大きく変化することはない。
これらの各非鉄金属材料に関しても後に詳しく紹介する。
金属材料の分類のまとめ
このように機械材料においては、目的である人間の利用の観点から材料が分類されることが多いので化学的性質に基づいて分類される周期表と異なって人類の歴史が大きく関わって分類されている点が非常に興味深い。
またこの分類は、技術系の会社員には、馴染み深い分類で大抵の製造業での材料部門の代表的な分け方になっている。
例えば製造業材料部門の鉄系金属部門とか非鉄系金属部門に分かれていることが多い(少なくとも自動車会社は、全社そうなっている)。
もし読者に材料の研究希望しているを学生の方がいれば将来、目指す材料の分野や就職面接の参考にでもして欲しい。
ここまでで説明した分類を図にすると次のようになる。鉄の細かい分類は後に紹介する。
キリが良いので今回の説明は、金属の鉄、非鉄までの説明で終わりにする。
次回は、非金属の説明から始める。
まとめ
では、1回目の機械材料講座をまとめていこう。
・機械材料とは、人類が材料をどうやって利用できるかを考える、研究する学問である。
・機械材料の大きな分類は金属と非金属に分けられる。
・機械材料の金属は、さらに鉄である鉄系金属と非鉄である非鉄系金属に分けらる。
・機械材料は、ずべての産業の土台になる非常に重要な学問である。
・機械材料の基本的な材料の比重は、頭に入れておこう。
・比重は、水の1g/cc、1kg/L、1kg/m^3を基準とした比のこと。
となる。
次回は、非金属系の説明をする。
基本的に本内容の教科書は存在せず筆者オリジナルだが筆者が学生から使っている教科書を紹介する。
もう一点、機械設計で必須の本があるので紹介しよう。
はっきり言って中身は不親切極まりないのだがちょっと忘れた時に辞書みたいに使える。このブログを見てくれれば内容が理解できるようになって使いこなせるはずだ。
またよく使う規格が載っているので重宝する。JISで定められて機械材料の特性が載っている。
多くの人が持っていると思うが持っていない人はちょっとお高いが是非、手に入れて欲しい。但し新品は高いので中古で購入を考えている方は表面荒さの項目が新JIS対応になっているのを確認することを強くオススメする。
さらにオススメしたいのがアマゾン キンドル アンリミテッドだ。アンリミテッドだと数多の本が月会費だけで読める(漫画〜専門書まで幅が広い)。
しかも流石、本屋が原点であるAmazonだけあって機械工学の専門書がそこそこ揃っていてかなり使えるサービスだ。
特に機械工学の専門書は高額になることが多いので少しだけ読みたい分野の本を眺めるのに非常に役に立つので是非、オススメしたい。
また本ブログをキッカケとしてエンジニアとしてステップアップして大きな仕事を掴む手段の一つとして転職するのも一つの手だ。
やはり予算の大きい機械設計、規模が大きい機械設計、大きな仕事をする場合は日本においては大手に入って仕事をする方がチャンスの機会が多いと思う。
私も最終的に転職はしていないが自分の将来を模索していた時期に転職活動をしていくつか内定を頂いたことがある。
折角なのでその経験(機械設計者の転職活動)を共有できるように記事に起こしたので参考にして頂ければ幸いだ。
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