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初心者でもわかる材料力学

初心者でもわかる材料力学6 はりの応力ってなんだ?(はり、梁、曲げモーメント)

前回の円環応力、トラスの説明で案内したとおり今回から梁(はり)の説明に入る。

初心者でもわかる材料力学5 円環応力、トラスってなんだ?(嵌め合い、圧入の基礎、トラス)

また初心者でもわかる材料力学を順に学びたい人はこちらの索引からどうぞ

機械設計において梁の検討は、最も重要なことの一つで頻繁に使う。

また材料力学の前半から中盤にかけての一大イベントに当たる。

様々な新しい概念が出てくるが今までの説明をしっかり理解していれば理解できるはずだ。

是非、頑張ってついてきてくれ。

梁(はり)って何?

まずそもそも梁とは何かを説明すると日本家屋に見られる梁や機械設計ではリブを梁と見立てたりする。

他には、公園の遊具のシーソーとかありとあらゆる構造物に存在する。

まず代表的な梁は片側で棒を支えている片持ち支持梁だ。

想像してもらうと次の図のように撓む(たわむ)。

次に代表的なのが棒の両端を支えている両持ち支持梁だ。

これも想像すると真ん中がへこむように撓むことが容易にできると思う。

他にも呼び方が決まっている梁はあるのだがまず基本のこの二つをしっかり理解して欲しい。

ここまで当たり前のことじゃないかと思う方が多いと思うのだが構造物を設計するとこの2パターンが複雑に絡み合った形状になりわからなくなってしまう。

逆にいえばどんなに複雑な構造物でも一つ一つ丁寧に分解していけばほぼ紹介した2パターンに分けられる。

分解したこの2パターンで考えれば多くの構造物の応力分布、変形がわかるのだ。

次に梁の外力と内力の関係を見ていこう。

梁の外力と剪断力、曲げモーメントの関係

まずは例題を設定していこう。右の壁で支えられている片持ち梁で考える。

外力は片持ち支持梁の先端に荷重P、座標を片持ち梁の先端を原点として平行方向をx、鉛直方向をyと設定する。向きは図の通り。

ここで任意の位置xで梁をカットした場合を考えてみる。カットした断面には、外力との釣り合いから剪断力Pが働く。

ただ後に詳しく述べるがはりの断面の符合のルールでカットした断面の左側は、図の下方向に働くせん断力を+としQと置き、右側は図の上方向に働くせん断力を+とし同じくQと置く。

ここで終わりにはならなくて、任意の位置xでカットすると梁を支えている壁がなくなるのでカットした梁は荷重Pによって、くるくると廻る力が働く。これを曲げモーメントと呼ぶ。

曲げモーメントをMとして図を見てみよう。

ここからは力の関係式を立てていく前に学生や設計歴が浅い人が陥りがちな大切な概念を説明する。

符合について(超重要ポイント!!)

とても大切な符合なのだがややこしいことに図の左側断面で下方(下側)に変形させようとする剪断力を+、上方(上側)に変化させようとする剪断力をーとする(右側断面は、逆になる)。

曲げ応力は、右左関係なく図の下方に変形させようとする場合を+とし上方に変形させようとする場合をーとする。

 

この符合のパターンは次の図で全パターンになる。実際の荷重とせん断力の向きが合っている訳ではない。あくまでせん断力が+の向きを表しているだけだ。

応力の説明でも符合の大切さを述べたつもりだが物理学をはじめとする工学の世界ではこの符合がとても大切なのである。

場合によっては、値より符合が合っている方が良かったりする場合も多い。

初心者でもわかる材料力学1 応力ってなんだ?(引張り、圧縮、剪断)

筆者は学生時代に符合を舐めていて授業の単位を数多く落とした。

逆に設計者になってから間違えている人もいて見てて悲惨だったのを覚えている。

このような符合の感覚はとても大切なので身につけておこう。

ここまでで定義が揃ったので力の関係式を立てていく

外力と内力の関係

まずは外力である荷重Pが剪断力Qを発生させるので次の式が成り立つ。(符合に注意)

$ 荷重Q=-P(剪断力) $

次に断面でのモーメントの釣り合いから(符合に注意)

$ 曲げモーメントM=-Px(荷重によるモーメント)  $

結構、簡単であるこれを図示化する。

剪断力を図示したものを剪断力図(Sharing Force Diagram SFD)と呼び、曲げモーメントを図示したものを曲げモーメント図(Bending Moment Diagram BMD)と呼ぶ。まあ名前はあまり重要ではない。

梁の座標の取り方でせん断力のみ符合が変わる。

曲げモーメントはいずれの座標でも符合は、変わらないのが特徴だ。

ここで面白いのが剪断力は一定だが曲げ応力は壁に近づけば増加することがわかる。曲げモーメントが最大になるところを危険断面と呼ぶ。

例題のような単純な梁では当たり前に感じると思うが複雑に梁が絡み合うと意外なところに曲げ応力が重なる場合がある。気をつけよう。

また撓み(たわみ)について今後、詳しく説明していくが変形量が大きいところが曲げモーメントの最大ではなく、変形量が小さいもしくは、0のところが曲げモーメントが最大だったりする。

このような感覚は設計にとって重要なので身につけよう。

ここまで片持ち支持梁で説明してきたが次に多くのパターンで考えられるように少し一般化する。

荷重と剪断力、曲げモーメントの関係

梁の力の関係を一般化するに当たって次のような例題を設定する。

とある梁の微小区間dxを切り取ってその区間に外力である等分布荷重q(x)(例えばN/mm)が掛かる。

その時に発生する左断面の剪断力をQとし右断面をQ+dQ、曲げモーメントの左断面をMとし右断面をM+dMとする。

ここでもせん断力、曲げモーメントが+になる向きに仮置きしただけで実際の符合は計算で求めていく。

図を見て欲しい。

ここで力の関係式を立てると(符合に注意 下に変形するのが+)

$ (Q+dQ)-Q+q(x)dx=0 $

整理すると

$  \frac{dQ}{dx}=-q(x) $

つまり剪断力Qを距離xで微分すると等分布荷重-q(x)になるのだ。まあ簡単にすると剪断力の変化する傾きは、等分布荷重と同じということである。

次に右断面でのモーメントの釣り合いを考えると次の式が成り立つ(符合に注意)。

q(x)によって発生するモーメントはq(x)dxが微小区間の真ん中で発生すると考える。

$ (M+dM)-M-Qdx-q(x)dx\frac{dx}{2}=0 $

dxとdxは微小な量を掛け算しているのでさらに微小になるので0とみなすと(例えば0.01×0.01=0.0001みたいな感じ)

$ \frac{dM}{dx}=Q $

となる。これは曲げモーメントを距離xで微分すると剪断力Qになる。つまり曲げモーメント量の変化する傾きは、剪断力Qと同じということである。

ここから梁において断面で発生するモーメントが一定(変化しない)ならば剪断力は発生しないことがわかる。

逆に剪断力が0のところで曲げモーメントが最大になることがあるということだ。

これが結構、見落としがちで例えばシミレーションで応力だけ見て0だから大丈夫と思っていると曲げモーメントの逆襲に会ったりする。気を付けよう。

まあ文字だけではわかりにくいと思うので例題を設定して解説しよう。

両持ち支持梁の解法例と曲げモーメントの最大

では例をつくろう。

単純な両持ち梁で長さがlで両端がA,Bという台に支えられている。

その梁に等分布荷重q(N/$ mm^2 $)が一様に作用している。(作用反作用の法則でA,Bに反力が発生する)

ここで力に釣り合いから次の式が成り立つ

$ RA+RB=ql $

$ RA=RB=\frac{ql}{2} $

次に先ほど説明したように任意の位置xでカットした梁を見ると次のようになる。

ここから剪断力Qを導くと(符合に注意)

$ Q=RA-qx=q(\frac{l}{2}-x) $

また右断面のモーメントの釣り合いから(符合に注意)

$ M=RAx-qx\frac{x}{2}=\frac{q}{2}x(l-x) $(Qをxで積分している)

これらを図示するとSFD、BMDは次のようになる。

これで剪断力Qが0の時に曲げモーメントが最大になることがわかる。

撓みのところでしっかり説明するが梁の特性として剪断力が0で曲げモーメントが最大の場所が変形量が最大になる。

逆に変形量が0のところは剪断力が最大になっていて結構、危ない場所になる。

つまり後で詳細に説明するがよく言われる剛性が高いということは、変形はあまりしないけれど発生剪断力は非常に高いのだ。

かなり危ない断面を多くもつ構造なのだ。

よく評論家とかが剛性があって良いとか言っているがそれは間違いで基本的には、均等に変形させて発生応力を等分布にする構造が望ましい。

どうしても寸法変化によって性能が大きく変化してしまう時だけ剛性をあげる。

無駄に剛性が高い構造は、設計者のレベルが低いかめんどくさくて検討をサボったかのどちらかである。

剛性を無駄に上げると剪断力が高くなるので耐えられるように面積を増やす。つまり重くなるのだ。重いと当然、性能は落ちるし極端にいえばコストも上がる。バランスが大切なのだ。

この辺の感覚は、実際に商品を設計しないと身につかないのだが基本的には説明した通りである。

まとめ

ここまでで基本的な梁の外力と応力の関係式は全て説明した。

特に重要なのがしつこいが

符合は、図の左側断面で下方(下側)に変形させようとする剪断力を+、上方(上側)に変化させようとする剪断力をーとする。

曲げ応力は、左右関係なく図の下方に変形させようとする場合を+とし上方に変形させようとする場合をーとする。

これだけは必ず感覚として身につけるようにして欲しい。

符合を間違えると変形量を求めるときに真の値と逆になってしまい悲惨な結果が待っている。

またこれからシミレーションがどんどん増えていくが結果を判断するのは人間である。数字は誰でも読めるが符合の意味は学習しておかないと危ない。

応力の引張りと圧縮のように梁も符合が変わるだけで材料に与える挙動が全く異なるのだ。

しつこく言うが流行りのAIだのシミレーションは計算するだけで答えは、教えてくれない。結果を判断するのはあなた、人間である。だからこそ計算の意味、符合の意味がとても大切なのだ。

初心者でもわかる材料力学1 応力ってなんだ?(引張り、圧縮、剪断)

ちょっと熱くなってしまった。

ここで終わろう。次回もかなり重要な断面の性質、断面二次モーメントについて説明する。

初心者でもわかる材料力学7 断面二次モーメントってなんだ?(はり、梁、曲げ応力、断面一次モーメント)

基本的に本内容の教科書は存在せず筆者オリジナルだが筆者が学生から使っている教科書を紹介する。

もう一点、機械設計で必須の本があるので紹介しよう。

はっきり言って中身は不親切極まりないのだがちょっと忘れた時に辞書みたいに使える。このブログを見てくれれば内容が理解できるようになって使いこなせるはずだ。

またよく使う規格が載っているので重宝する。JISで定められて機械材料の特性が載っている。

多くの人が持っていると思うが持っていない人はちょっとお高いが是非、手に入れて欲しい。但し新品は高いので中古で購入を考えている方は表面荒さの項目が新JIS対応になっているのを確認することを強くオススメする。

さらにオススメしたいのがアマゾン キンドル アンリミテッドだ。アンリミテッドだと数多の本が月会費だけで読める(漫画〜専門書まで幅が広い)。

しかも流石、本屋が原点であるAmazonだけあって機械工学の専門書がそこそこ揃っていてかなり使えるサービスだ。

特に機械工学の専門書は高額になることが多いので少しだけ読みたい分野の本を眺めるのに非常に役に立つので是非、オススメしたい。

また本ブログをキッカケとしてエンジニアとしてステップアップして大きな仕事を掴む手段の一つとして転職するのも一つの手だ。

やはり予算の大きい機械設計、規模が大きい機械設計、大きな仕事をする場合は日本においては大手に入って仕事をする方がチャンスの機会が多いと思う。

私も最終的に転職はしていないが自分の将来を模索していた時期に転職活動をしていくつか内定を頂いたことがある。

折角なのでその経験(機械設計者の転職活動)を共有できるように記事に起こしたので参考にして頂ければ幸いだ。

転職活動シリーズ1 私の転職活動概要(機械系エンジニア、30代半ば2010年代の中頃)

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  • この記事を書いた人

kazubara

輸送機器メーカーでの元エンジン設計者。15年の職務経験から機械設計知識を伝道します。また職歴を活かしてエアソフトガンをエンジニアリング視点で考察して行きます。

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