前回での弾性域ってなんだの最後の案内の通り、今回はねじりの応力の説明をしていく。
機械設計にとって軸という物体は使う頻度が非常に高い、バネもネジもねじりが大きく関係するのだ。
とても大切なことで、基本になることなのでなんとか理解してほしい。
また初心者でもわかる材料力学を順に学びたい人はこちらの索引からどうぞ
今回のねじりを理解してもらえれば、残りは梁(はり)の曲げ、撓み(たわみ)がわかれば機械設計に必要な基本的な材料力学は一先ず十分であると思う。
例題の設定
まずは説明するに当たって例題の設定をしよう。
任意の長さで直径がdの丸い棒にトルクT(N・m)のモーメントがかかっている状態を設定する。
ちなみにトルクは、単位の通り 力(N)×距離(m) で物体に対し回転を与える力のことである。
この辺りの基礎的な物理ももし要望があれば解説することを考える。
また物体に与えられる外力の検討、解析方法に関しては別シリーズで始めたいと考えている(機械力学が該当する)。
シリーズ名は初心者でもわかる機械力学で紹介していく予定なので今しばらくお待ちいただきたい。
少し話が飛んだが想像することは、単純に棒を捻っているだけだ。
丸棒をねじった時のひずみと応力
まずはねじった時にどのようなひずみが棒に発生しているのかを考えてみよう。
棒の左端を基準面と考えて固定してねじりによる歪みを考えていく。
上の写真の赤色部分(縦長の三角形の部分)が歪んでいる。
もう少しわかりやすくするために棒を平面に展開すると次の図のようになる。
この図から軸の左端面の点aに対して軸の右端面の長さ 点b-点c分が変形している。このような歪みの形態は剪断歪みになる。
この変形の形態を忘れた人は初心者でもわかる材料力学1の剪断ひずみを思い出してほしい。
確か剪断ひずみは次の図で表される。
これより剪断歪みγは変形量λを元の長さLで割れば求まる。
剪断歪みの式を丸棒に適用していく
これから考えると長さLの丸棒のひずみγ0とおくと次の式のようになる。剪断歪みはγ(ガンマ)で表す。
$ 丸棒のひずみ γ0=\frac{線分bc}{線分ab}=\frac{d}{2}×θ×\frac{1}{L} $
線分bcの長さは円弧の長さで半径×角度$ \frac{d}{2}×θ $で求められることを思い出してほしい。
ひずみが分かればフックの法則で弾性係数をG(Pa)とすれば次の式で剪断力τ0が求められる。(弾性に関して忘れた人は初心者でもわかる材料力学2を見て欲しい)
$ 丸棒の剪断力τ0=G(弾性係数)×\frac{dθ}{2L}(丸棒のひずみ) $
これで剪断力と歪みがわかった。
ここでθをねじれ角と呼ぶ。
さらにねじれ角$ \frac{θ}{L} $を比ねじれ角(単純に単位長さ当たりの角度のこと)と呼び、φで表すと歪みと剪断力は次の式になる。
$ 丸棒の歪み γ0=\frac{d}{2}(半径)×φ(比ねじれ角) $
$ 丸棒の剪断力 τ0=G(弾性係数)×\frac{d}{2}(半径)×φ(比ねじれ角) $
と簡単な式になる。
つまり比ねじれ角φを使うと式が簡素になり楽に扱える。比ねじれ角自体は簡単な概念で単純にねじれ角θを棒の長さLで割っただけである。
正確に比ねじれ角φを述べると棒のある単位長さdxに対しねじれ角dθから$ 比ねじれ角=\frac{dθ}{dx} $で表される。
つまり軸が長くてねじれ角が小さければ比ねじれ角は小さい、逆だと大きいでそれだけだ。
弾性の詳細はこちら
これまで求めた歪みは実は丸棒の最表面の歪みだけで、実は丸棒の内部は半径0〜半径$\frac{d}{2}$まで各半径毎に歪み量と剪断力が変化している。
これを図で表す(黄色の矢印が歪み、剪断力)。
外周に行けば行くほど歪みと剪断力が大きくなるのがわかると思う。
ここで丸棒の展開図と側面図を一つの図で表した図を参考までに載せておく。
ここまでわかったところで次に外力によるトルクTと剪断力の関係を考えてみよう。
トルクと丸棒内部の剪断力の関係
今度はトルクがかかった断面をカットした図をイメージしよう。
できれば剪断力とトルクの関係を一気に求めたいのだが剪断力、歪みが半径が変わるたびに変化するので簡単には求められない。
仕方が無いのでこのような場合は微小部位を木の年輪(年輪幅dr)みたいなのに定義し、微小部位内の力、応力の関係式を求めてから微小部位を足し合わせて求めていく(積分)。
微小部位を年輪のような形状、半径rで幅drとして輪を想像してみよう。
ここで半径rとしたので丸棒の歪みγ0、剪断力τ0は次の式で表される。
$ 丸棒の歪み γ0=rφ $
$ 丸棒の剪断力 τ0=Grφ $
これで年輪のところに剪断力が発生しているのがイメージできると思う。
上の求めた剪断力から外力Fを求める。外力Fは剪断力の定義$ 剪断力τ=\frac{外力}{面積}$なので剪断力に年輪の面積を掛けると求まる。
年輪の面積をわかりやすくするために年輪を帯に変換してみる。
年輪の帯の面積は$dr × 2πr$なので外力は次の式で求められる。
$ 半径rでの外力P 外力P=2πr×dr×τ $
わかりやすいように年輪(円環)と立方体とした展開図が同じ図に載っている図を載せておく。
ここまでで求めたのは丸棒の断面の一部の年輪だけなので次に丸棒の全体の外力を求めていく。
年輪は丸棒の断面の一部なので丸棒全体を表すと下の図のように半径の距離毎に年輪が複数存在するので少し工夫しないと丸棒全体の外力は求められない。
この年輪毎に発生する外力の足し合わせに積分を使っていく。
ここで筆者のこだわりで四則演算と乗数だけで表していたが、残念ながら積分を使うことになる。申し訳ない。
積分といっても微小区間を足し合わせるだけだ。
積分をする前に考えて欲しいことが微小部位の剪断力によって発生する外力Pは微小部位の剪断力を全て足し合わせると丸棒をねじっているトルクTになることを理解して欲しい。
丸棒は入力されている力トルクTによって発生している変形(歪み)なので、その変形によって発生した剪断力はトルクと釣り合わないと理屈がおかしくなる。
つまり、結局のところ剪断力によって発生する外力PのトータルはトルクTになるのだ。
ただし注意点として外力Pの単位は[N]でトルクTの単位は[Nm]なので外力Pを使ってトルク[Nm]にする必要がある。
トルクはNmなので年輪で発生する外力Pに半径rを掛けてトルクTとすると次の式が成り立つ(ちなみにトルクは 力×距離 なので丸棒のトルクも外力P×距離r)。
トルク T=外力P×半径r=2πr×dr×τ×r
上の式のトルクは年輪1個分の式なので年輪を丸棒全体になるよう足し合わせるのために積分を使うと以下の式になる(積分の範囲は原点から外周までなのでdrの範囲は$ 0〜\frac{d}{2} $まで)。
$ 丸棒に掛かるトルク T =\int_0^\frac{d}{2}r×2πrdr×τ $
外力P:2πrdr(年輪の面積)×τ(剪断力)をトルクにするために任意の半径rを掛けて積分する
となる。
あとはただの計算だ。まず$ τ=Grφ $を代入すると
$ T=2πGφ\int_0^\frac{d}{2}r^3dr=\frac{πd^4}{32}×Gφ $
$ r^n $の積分は$ \frac{1}{n+1}r^{(n+1)} $だ。
ここで比ねじれ角φについての式に変換すると
$ 比ねじれ角 φ=\frac{32}{πd^4}×\frac{T}{G} $
となり$ 丸棒の剪断力τ0=Grφ $に代入すると
$ τ0 =\frac{32}{πd^4}× Tr $
剪断力が最大になるのは説明した通り最外周面なのでr=d/2を代入すると
$ τmax=\frac{16}{πd^3}T $
となる。
この式は次の重要なポイントが導ける。
・丸棒のような軸の捻りによる剪断力は弾性係数Gに全く関係なく、軸の直径の3乗に反比例して小さくなる。
・この特性を利用して軸の設計で強度を増やしたい場合は直径を大きくすると発生応力が激減する。
だから軸の設計は案外にも楽だったりする。
楽なのでテストして軸が捻じ切れると、大概は設計ミスなのでちょっと恥ずかしいのだ。
これで丸棒のトルク(外力)と剪断力(物体内部の力)の関係がわかったと思う。
中空の丸棒の場合(応用)
今度は丸棒でも中が空いている中空の棒の場合を考えてみよう。
例として棒の外径がd1で空いている穴の径をd2に外力としてトルクTが掛かるとしよう。
そうすると剪断力τのイメージは以下の図のようになる。
丸棒が理解できていれば簡単なのである。
誤解を恐れすに図解すると以下のようになる。
図のように直接、引ければ楽なのだが流石にそう単純にいかないので、やっぱりここで積分を使う。
でも丸棒と考え方は全く同じで積分の範囲が$0〜\frac{d}{2}$だったのが$\frac{d2}{2}〜\frac{d1}{2}$に変わるだけなのだ(意味的に引き算に近い)。
よって式は以下のようになる。
$ 丸棒に掛かるトルク T =\int_\frac{d2}{2}^\frac{d1}{2}r×2πrdr×τ$
これをサクッと計算して比ねじれ角φを算出すると
$ 比ねじれ角φ=\frac{32}{π(d1^4-d2^4)}×\frac{T}{G} $
ここで半径rでの剪断力τは丸棒と同じくτ=Gφで
$ 剪断応力τ=\frac{32}{π(d1^4-d2^4)}×Tr $
当然、剪断力が最大τmaxになるのは、丸棒と一緒で最外周d1/2なので代入すると
$ 最大剪断力τmax=\frac{16d1}{π(d1^4-d2^4)}×T $
この特性はとっても重要で以下にまとめる。
・ねじりを受ける中空軸の場合に中空部の直径を増やして軽量化しても、最大剪断力に大きな影響を与えない。
・軸は基本的に中空にして軽くしても捻り強度はほとんど変わらない。
例えば外径d1が3で内径d2が2だとしよう。
直径の単純な比で考えると3:2で大きな影響が出そうな気がすると思う
しかしながら、軸の捻りで考えると最大剪断応力の式の分母の値は、$π(3^4-2^4) $なので81-16=65になり、比が$ d1^4:d2^4=およそ5:1 $で影響なんか微々たるものなのだ。
だから軽くて丈夫な軸を設計するなら外径を取れるだけ大きくとって、ガンガン中を肉抜きすればいい。遠慮しないで抜いてしまうのだ。
このように式の意味がわかっていれば軽量化するのにしっかりと根拠が示すことが可能になり、ためらいなく実行できるようになる。
これで中空軸の発生応力とトルクTの関係もわかるはずだ。
まとめ
今回はちょっと文と式が多めになってしまったが順を追って見ていけばきっとわかるはずだ。いつも述べているが機械設計者に大切なことは暗記ではなくイメージと理解力と検索能力なので頑張って理解をして欲しい。
今回の大切なポイントを2点ほど簡潔に述べて終わろう。
・丸棒でのトルクTと発生剪断力τの関係は、弾性係数に寄らず棒の径の3乗に反比例する
・中空軸でのトルクTによる発生剪断力τは中空部の径が大きくても影響はかなり少ない
以上で今回は終わりにする。
次回は、熱応力残留応力について解説する。
基本的に本内容の教科書は存在せず筆者オリジナルだが筆者が学生から使っている教科書を紹介する。
もう一点、機械設計で必須の本があるので紹介しよう。
はっきり言って中身は不親切極まりないのだがちょっと忘れた時に辞書みたいに使える。このブログを見てくれれば内容が理解できるようになって使いこなせるはずだ。
またよく使う規格が載っているので重宝する。JISで定められて機械材料の特性が載っている。
多くの人が持っていると思うが持っていない人はちょっとお高いが是非、手に入れて欲しい。但し新品は高いので中古で購入を考えている方は表面荒さの項目が新JIS対応になっているのを確認することを強くオススメする。
さらにオススメしたいのがアマゾン キンドル アンリミテッドだ。アンリミテッドだと数多の本が月会費だけで読める(漫画〜専門書まで幅が広い)。
しかも流石、本屋が原点であるAmazonだけあって機械工学の専門書がそこそこ揃っていてかなり使えるサービスだ。
特に機械工学の専門書は高額になることが多いので少しだけ読みたい分野の本を眺めるのに非常に役に立つので是非、オススメしたい。
また本ブログをキッカケとしてエンジニアとしてステップアップして大きな仕事を掴む手段の一つとして転職するのも一つの手だ。
やはり予算の大きい機械設計、規模が大きい機械設計、大きな仕事をする場合は日本においては大手に入って仕事をする方がチャンスの機会が多いと思う。
私も最終的に転職はしていないが自分の将来を模索していた時期に転職活動をしていくつか内定を頂いたことがある。
折角なのでその経験(機械設計者の転職活動)を共有できるように記事に起こしたので参考にして頂ければ幸いだ。
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